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愛のスピーチ 胸に刻む 被爆者で信徒服部さん、中継見守る

 「2度も広島にお迎えすることができ、とても幸せ」。被爆者でカトリック信徒の服部節子さん(88)=広島市中区白島北町=は、自宅のテレビで教皇のスピーチを見守った。そっと手を重ね、時折うなずく。38年前と同じように、被爆地から投じられた言葉をかみしめた。

 14歳の時、爆心地から北1・7キロ、現在と同じ場所にあった自宅で被爆した。あの日、広島市中心部に向かったという父保田義登さんは遺骨すら見つからなかった。戦後、キリスト教と出合った。原爆犠牲者への祈りをささげることが生きる支えとなった。

 ただ、被爆体験を語るのは避けていた。「残酷で忘れたい記憶ですもの」。転機は38年前の故ヨハネ・パウロ2世の広島訪問だった。聖歌隊の一員として、何度も足を運んだ平和記念公園内の原爆供養塔の前にいた。「父にも教皇の声は届いている」と思えた。

 「平和を訴えなさい、と励ましてくださった」。その後は、父を失った悲しみや、あの日逃げ惑う中で目にした惨禍を修学旅行生に語るようになった。

 「ほほ笑まれる表情に愛があふれている」。画面を通して感じた温かさ、力強いメッセージを胸に刻んだ。「たくさん大切なことを言われた。若い人が受け取って、平和のために働き掛けてほしい」と願った。(石井雄一)

(2019年11月25日朝刊掲載)

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