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緑地帯 指田和 消えた家族を追って <2>

 原爆によって一家全滅したのは、鈴木六郎さん(43)と妻のフジエさん(33)、長男の英昭君(11)、長女の公子ちゃん(9)、次男の護君(3)、次女の昭子ちゃん(1)。家族は広島市内の播磨屋町(現中区本通)に住み、「美髪院」を営んでいた。

 六郎さんの撮りためた写真やアルバムを長年保管してきたのは、現在、広島県府中町に住む恒昭さん(88)。原爆資料館の助力を得て私が恒昭さん宅を訪ねたのは、2018年4月のことだ。

 恒昭さんは、六郎さんの甥(おい)に当たる。「私の父親と六郎さんが兄弟なんよ。アルバムは空襲の火災を避けて、六郎さんが東蟹屋のウチか舟入の親戚へ預けたんじゃないかのう」。恒昭さん宅も原爆の爆風で大破したが、火災は逃れた。いずれにしてもアルバムは無事残り、恒昭さん家族が転居する際に荷物と共に運び、長年押し入れに眠っていたのだった。

 これらをどうするかは恒昭さんの心にずっとひっかかっていた。やがて自分がいなくなれば、家族も処分に困るだろう。でも、原爆の前日まで仲良く遊んでいたいとこやその家族のことを思うと、自ら処分する気持ちにもなれない。

 そんなころ、原爆資料館がこのアルバムの存在を知り、16年の新着資料展の展示につながる。それを私が偶然目にし、絵本にしたいと申し出たのだった。

 「そういうことなら、このアルバムをぜひご活用ください」。恒昭さんがかけてくれた一言。驚きとうれしさで、私の心臓は早鐘のように高鳴った。アルバムの重みに手が震えた。(児童文学作家=埼玉県)

(2019年12月10日朝刊掲載)

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