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連載・特集

緑地帯 指田和 消えた家族を追って <3>

 大事に抱えるようにして借りた、鈴木六郎さん一家の13冊のアルバム。しかし、私は親類の恒昭さんから聞いた一家の悲惨な最期を反すうするにつけ、その重さに胸がふさがれ、アルバムを開くことができなくなってしまった。

 英昭君と公子ちゃん兄妹は袋町国民学校(現袋町小)で被爆。共に御幸橋まで逃げるが、重症を負った公子ちゃんの消息はそこで途切れる。英昭君は親類宅にたどり着いた数日後、高熱を出し、血を吐いて亡くなった。幼い護君と昭子ちゃんは、のちに家屋の灰の中から骨となって見つかった。父六郎さんの安否は、親類が市内の救護所で死亡記録を見つける。そして母フジエさんは瀕死(ひんし)の状態で親類宅にたどり着くが、家族の死を悟り、井戸に飛び込んだ―。

 夏が近づいていた。アルバムを前に、私はいいかげん、癇癪(かんしゃく)を起こした。「自分で絵本をつくると決めたんだろ、逃げないで向き合え!」。そして、意を決してページをめくった。

 ショックだった。そこにあったのは、つつましくも和気藹々(あいあい)と暮らす六郎さん一家の姿だった。落ち着いて考えれば当然で、被爆後の悲惨な写真が残っているわけがない。屈託なく笑う公子ちゃんと英昭君の表情が目に染みた。

 全てのアルバムを見終わった私の胸に、むくむくと湧き上がったのは、「なぜこの家族が死ななければならなかったんだ」という怒りだった。絵本づくりの方向性が見えた気がした。「明日を信じる一家の笑顔」、そして「未来を永遠に奪った原爆への怒り」、この二つを軸に組み立てようと決めた。(児童文学作家=埼玉県)

(2019年12月11日朝刊掲載)

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