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連載・特集

緑地帯 指田和 消えた家族を追って <8>

 原爆資料館の展示で鈴木六郎さん一家の写真と出会ってから3年後、ようやく世に出すことができた「ヒロシマ 消えたかぞく」。この絵本がこれからどんなふうに読まれ、育っていくのだろう。

 興味深いことだが、出版社に寄せられる感想は、今のところ年配の方々からのものが多い。六郎さんの写真が、自身の子どもの時代や戦時中のことを思い出すスイッチになるのだろうか。世代を超える一冊になってくれれば、こんなにうれしいことはない。

 これまで私はヒロシマや東日本大震災を絵本で描いてきた。今でこそ、「いのちを考える大事な絵本」と言われるが、初めは出版社に企画を持っていっても、「絵本は子どもに夢や希望を与えるもの。つらい事実を伝える内容はどうか」と断られることが多かった。その度くじけそうになったが、自分の中では揺らがない芯があった。「戦争や震災はつらい事実で、夢はないかもしれない。でも、どん底から前を向いて生きようとする人々に光がある。その力強さ、希望を描きたい」という思いだ。

 今回の絵本は「全滅した家族」を追った一冊で、救いがないように思えるかもしれない。でも私は、そこにも一条の光を見る。この世に一つしかないわが家族への愛や、消滅した家族を生き生きとよみがえらせた写真の記録性と意義。そして何より、この絵本が多くの人の心に平和の種を蒔(ま)いてくれると信じる、私自身の希望だ。

 その種をしっかり芽吹かせるためにも、私は今、この鈴木さん一家をさらに掘り下げた、次の作品に取りかかり始めている。(児童文学作家=埼玉県)=おわり

(2019年12月18日朝刊掲載)

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