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連載・特集

回顧2019 中国地方から 教皇の広島訪問

核廃絶 世界に行動訴え

 「戦争のための原子力使用は、現代において犯罪以外の何ものでもない」

 11月24日、夕闇に包まれた平和記念公園(広島市中区)。ローマ教皇フランシスコが、世界へ平和のメッセージを発した。教皇として38年ぶり2度目の被爆地訪問。照明に浮かぶ原爆慰霊碑を背に、核兵器保有も「倫理に反する」と断じ、全ての人々に廃絶への行動を呼び掛けた。

 教皇はまた、被爆の記憶を次世代に語り伝える意義を強調した。「全ての人の良心を目覚めさせる、広がる力のある記憶」だからだと。「教皇のスピーチには広島の心に通ずるものがあった。多くの市民を勇気づけたのではないか」。広島市の松井一実市長はその後の記者会見で振り返った。

資料館が新展示

 ただ、広島の被爆者たちに落胆の声があったのも事実だ。教皇の公園滞在はわずか51分。教皇が被爆証言を聞いた時間は6分半にとどまった。被爆の「記憶」を伝える原爆資料館に立ち寄る時間もなかった。

 その原爆資料館は4月25日、本館のリニューアルオープンを迎えた。被爆者の高齢化が進む中、犠牲者の遺品など実物資料を中心とした展示内容に刷新。被爆者や遺族の苦しみに向き合ってもらうため説明文を最小限にとどめるなど、来館者の感性に訴える工夫を凝らした。外国人被爆者のコーナーも初めて設けた。

 再開直後の大型連休には長い列ができた。前年同期に比べ来館者数は6割増。入場を制限した日もあった。一つ一つの遺品に向き合ってもらうことを意図した展示だ。来館者が増えれば見学時間を確保しにくくなる。そのジレンマを解消する手だてが同館には求められる。

国際情勢は悪化

 この一年、核軍縮を取り巻く状況は悪化し続けた。米国とロシアの中距離核戦力(INF)廃棄条約は8月に失効。2021年に期限切れとなる新戦略兵器削減条約(新START)の延長交渉も見通しが立たない。米国は臨界前核実験を継続的に実施する方針で、核戦力増強の姿勢を鮮明にする。

 そんな中、核兵器禁止条約の批准は34カ国・地域(今月25日時点)まで増えた。当初期待されたペースより遅いが、発効に必要な50カ国・地域に徐々に近づいている。核兵器保有国や、米国の「核の傘」に頼る日本などは条約反対の姿勢を崩していない。

 今春の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第3回準備委員会は、こうした情勢を如実に反映した。米ロは非難の応酬を繰り返し、保有国と非保有国は禁止条約の評価などを巡って割れた。「唯一の被爆国」を掲げる日本政府も、禁止条約への反対姿勢が目を引くばかりだった。

 NPT発効50年の節目となる20年は条約の運用状況を議論する5年に1度の再検討会議がある。被爆75年とも重なる。核軍縮の後退に歯止めをかけられるか。正念場の一年になる。(明知隼二)

(2019年12月27日朝刊掲載)

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