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2019年県内重大ニュース 平和 被爆建物保存巡り波紋

 ローマ教皇フランシスコの広島訪問や原爆資料館(広島市中区)本館のリニューアルなど、核兵器廃絶を求める被爆地にとって追い風となる出来事があった一年だった。一方で重い課題を積み残した。

 その一つは広島市内最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」(南区)の保存活用策。県は今月、所有する3棟のうち1号棟の外観を保存し、2、3号棟は解体する原案を示した。耐震化に巨額の費用がかかることが背景にある。

 しかし、広島市の松井一実市長は全3棟を残すよう県に伝えたと公表。県と市の姿勢の違いが鮮明になった。市民団体などからも3棟保存を求める声は相次ぎ、波紋は広がる。県は2020年2月に方向性を決める方針だ。

 その市でも、所有する被爆建物、広島大旧理学部1号館(中区)の保存活用策が動きだす。一部を保存し、広島大、広島市立大との3者で「ヒロシマ平和教育研究機構」(仮称)を設置する構想。19年度中に整備へ向けた基本計画をまとめる。

 原爆の惨禍を伝える「無言の証人」をどう次代に引き継ぐか。被爆地の自治体に、被爆建物の保存活用を巡る理念が問われる。

 秋葉忠利・前市長時代に平和市長会議(現平和首長会議)が「2020ビジョン」で掲げた20年までの核兵器廃絶の実現は不可能となった。20年夏に策定する次期ビジョンでは核廃絶の目標年限を示さない見通しという。

 老いを深める被爆者に時間はない。核軍縮を巡る国際情勢が厳しさを増す中、核兵器廃絶への道筋を描く新たな指針が求められる。(久保田剛)

(2019年12月29日朝刊掲載)

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