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社説・コラム

天風録 『平手打ちの効き目』

 主役があんまり張り切ると見る側はしらける。深夜のテレビが映したゴーン被告の記者会見がまさにそうだった。あんなに身ぶり手ぶりが大げさだと、かえって逆効果だし。まあ、気持ちは分かるが▲加えて寝付きを悪くしたのは、この人の演説だった。イランの最高指導者ハメネイ師。米軍への報復ミサイル攻撃について「米国に平手打ちを食らわせた」。ゆっくりとした冷静な語り口からは喜怒哀楽の感情が伝わってこない。そこが逆に、怖い▲さて米国はどう出るだろうと、目覚めて早速つけたテレビにトランプ大統領の姿。いつになく神妙な面持ちで「軍事力は使いたくない」。なるほどと合点がいく思いがした。「平手打ち」の意味を察したに違いない▲きっとイランも、固く握った拳で殴り合うような全面衝突は回避したいのだ。だからミサイルの照準をわずかにずらしたのかもしれない。そして米国は当面、軍事作戦ではなく経済制裁で相手の出方をうかがうことに▲とはいえ核開発や武力行使をちらつかせながら中東の覇権を争う。そんな悪夢が続いては夜も寝られなくなる。ここは何としても和平の「手打ち」を。両国を取り持つ調停役の登場が待たれる。

(2020年1月10日朝刊掲載)

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