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社説・コラム

社説 海自護衛艦 中東へ 派遣見直し ためらうな

 海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」が中東海域へ向けて出航した。国会承認を必要としない防衛省設置法の「調査・研究」に基づき、先に派遣されたP3C哨戒機とともに、日本船舶の安全確保に向けた情報収集に当たる。期間は1年と定められた。

 政府が、国会でまともな議論をしないまま派遣を閣議決定したのは昨年末のことである。だが中東情勢はその後、不安定さを増している。

 年明けに米国がイランの司令官を殺害し、イランも報復のミサイル攻撃を行った。さらなる武力衝突に至っていないが、緊迫した状況は続き、事態は流動化している。

 情勢が大きく変化したにもかかわらず、政府はその分析や不測の事態への備えについて説明を尽くしていない。そもそも派遣の必要性にも疑念が残る。

 「調査・研究」を根拠にした長期の海外派遣は初めてのことだ。防衛相の命令だけで実施できる法律を適用したことも問題が大きい。自衛隊の海外活動を今後、なし崩し的に広げることにつながりかねない。

 通常国会で徹底的な議論が必要だ。国民の理解が不十分なままで、自衛隊を海外へ派遣することは容認できない。中止を含め、再検討すべきだ。

 海自艦は、イランに面したホルムズ海峡やペルシャ湾を避け、オマーン湾やアラビア海北部で情報収集に当たる。米国主導の有志連合には加わらない。

 だからといってリスクが低減されるわけではあるまい。活動海域は有志連合の行動範囲と重なる。防衛省は、バーレーンにある米海軍司令部に連絡員を派遣し、収集情報も共有する。

 政府は「日本独自の調査・研究」と強調する。だが、有志連合と一体的な活動と見られ、現地の反米武装勢力の攻撃対象になる可能性も否定できない。

 不測の事態になれば、政府は自衛隊法に基づき武器使用が可能な海上警備行動を発令する方針だという。正当防衛や緊急避難の範囲で武器は使えるようになるが、守る対象は日本船籍に限られる。

 外国船籍の船には武器を使った防護は許されず、大音量で警告したり船体を寄せてけん制したりするしかない。

 この海域を航行する船のうち日本船籍はわずか1割程度にすぎない。日本人が乗ったり日本企業が所有したりする船が襲われても、外国船籍であった場合、何も手出しができないケースが出てくるかもしれない。

 防衛省は、具体的な対処について部隊行動基準に定めたとするが、現場では臨機応変に難しい判断を迫られるのは間違いない。不測の事態への対応を不安視する声が自衛隊内部からも出ているという。

 原油の8割以上を中東に依存する日本がタンカーの安全確保に向けて、一定の役割を果たすことは否定しない。だが今回の派遣には、有志連合への参加を強く求めたトランプ米大統領の顔色をうかがい、同調をアピールする狙いが透ける。

 危険海域の平和を維持するための自衛隊の派遣が、かえって隊員を危険にさらし、関係する船舶のリスクを高めることにつながるのではないか。

 真の安全確保には、米国とイランの間にたって緊張緩和を促す外交努力が求められる。

(2020年2月4日朝刊掲載)

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