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社説・コラム

社説 米潜水艦に小型核 軍拡競争あおる愚行だ

 米国防総省は、低出力の小型核弾頭を搭載した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を実戦配備したと発表した。

 爆発力を抑え、軍事施設などに絞った限定攻撃ができるため、従来型の核兵器よりも使用のハードルを心理的に下げるとされる。不謹慎にも「使える核」と称される。

 そうした小型核の存在をわざわざ、トランプ米大統領が施政方針を示す一般教書演説に合わせて公表した狙いは何か。

 ロシアや中国に対する抑止力を高めたとし、「偉大な米国」をアピールしたかったのだろう。だが、かえって反発を招き、際限のない核軍拡の競争をあおる愚行というほかない。決して容認できない。

 「使える核」の実戦配備は、不必要な戦闘を激化させるとして、米国内にも根強い反対意見がある。潜水艦からミサイルが発射された段階で、小型核を搭載しているかどうか判別が難しく、敵国が過剰反応して反撃に出る可能性が高くなるためだ。

 疑心暗鬼と相互不信が増幅されれば、核戦争のリスクが高まりかねない。核兵器が使われれば、どんな惨劇がもたらされるのか。

 核兵器廃絶を悲願とする広島、長崎の被爆者が「許せない行為」と声をそろえたのも当然である。

 米国は2018年2月に、中期的な核政策の指針「核体制の見直し(NPR)」をまとめた。ロシアや中国が核兵器の近代化や拡大を進めているとして新型の小型核弾頭の開発に注力してきた。

 昨年8月には、米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約が失効した。冷戦終結を象徴してきた核軍縮の取り決めが失われた痛手は大きい。

 地球最後の日まで残り時間を概念的に示す「終末時計」は1月下旬に過去最短の「100秒」になった。危機は深い。

 米ロ間で唯一残った歯止めといえる新戦略兵器削減条約(新START)は来年2月に期限を迎える。交渉に目立った進展はなく、延長が危ぶまれる。

 今回の小型核の実戦配備を受け、ロシアや中国も競うように小型核を配備する可能性は高い。新STARTが失効すれば、制限を受けることなく核弾頭やミサイルの配備が進められるようになる。

 そんな中で、核拡散防止条約(NPT)が発効50年を迎える。5年に1度の再検討会議が4月末から米ニューヨークの国連本部で開かれる。合意文書を全会一致でまとめられるか、議論の行方が注目される。

 開幕を控えたタイミングでの小型核の実戦配備である。米国は、NPTが核保有国に義務付けている「誠実な交渉」をどう考えているのか。

 核保有国への不信感を募らせている非保有国が、核兵器禁止条約を推し進める流れが一気に強まり、NPTを空洞化させかねない。

 核兵器禁止条約は既に35カ国・地域が批准し、発効まで残り15カ国・地域に迫った。核兵器のない世界の実現にはNPTと両輪で進める必要がある。

 被爆国を名乗るのであれば、日本政府は、再検討会議の成功に向け、米国をはじめとする保有国を粘り強く説得する外交努力を重ねなければならない。

(2020年2月6日朝刊掲載)

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