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「核廃絶 声届けたかった」 NPT会議延期 被爆者ら落胆

 新型コロナウイルスの世界的な大流行で核拡散防止条約(NPT)再検討会議が1年延期される見通しとなった13日、会議に合わせて渡米し、核兵器廃絶を世界に訴える予定だった広島の被爆者たちに落胆が広がった。被爆から75年。高齢化する被爆者たちが節目の重要会議にかけた思いは強く、無念さを募らせた。

 日本被団協(東京)は約50人の代表団を派遣し、会場の国連本部で原爆展を開く予定だった。木戸季市事務局長(80)はこの日、役員たちに電話で派遣などを断念する方針を伝えた。「国際社会に被爆者の願いを直接訴えられない。本当に残念だ」と声を落とした。

 延期は1年が有力。代表団の1人で、広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之理事長代行(77)は、広島市中区の事務所で「今年は参加できても、来年は体調面で難しくなる人も出てくるだろう。1年先は私たちには遠い」と案じた。

 「被爆者の健康を考えれば仕方がない。核兵器がなくなるまで廃絶を訴え続けることに変わりはない」。もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(75)は受け止めた。

 NPTは今年、発効から50年。節目の年の再検討会議では、米国による小型核の実戦配備など新たな軍拡競争に歯止めを掛けられるかが問われるはずだった。

 32人の派遣を予定した県原水協の高橋信雄代表理事(81)は「危機的な情勢の中、何としてもヒロシマの思いを届けたかった」と次の機会を見据えた。県原水禁の金子哲夫代表委員(71)は「重要な局面の今こそ核兵器の保有国と非保有国がそろい、被爆者の声を届けることが必要だ。節目の今年中に開催を」と望んだ。

 NPTの傍聴や関連イベントには、県内の若者も参加する予定だった。市民団体が派遣する高校生平和大使で基町高2年の牟田悠一郎さん(17)=東区=は「今回は行けなくても、国内で大使の活動をもっと知ってもらえる努力をしたい」と前を向いた。

 平和首長会議(会長・松井一実広島市長)は高校生8人を送る計画だった。福山工業高(福山市)の計算技術研究部員2人は、バーチャルリアリティー(VR)映像で再現した爆心地周辺の町並みを紹介しようと準備していた。顧問の長谷川勝志教諭(54)は「来年では派遣予定の生徒は卒業してしまう。頑張っていた彼らが国際舞台で発表できないのは残念だ」と話した。

「開催 望ましい」 茂木外相が言及

 茂木敏充外相は13日の閣議後会見で、新型コロナウイルスの世界的大流行で核拡散防止条約(NPT)再検討会議の4月開幕を1年延期する方向で検討されていることについて「報道は承知しているが、そのような決定がなされているとは聞いていない」と述べた。

 NPT再検討会議は核軍縮・不拡散の道筋などを探るため5年に1度開かれる。茂木氏は「さまざまな重要な会議はできる限り、予定通り開催できることが望ましい」とし、「(延期が)決まっていないのに、だめならどうするかという答えは控えたい」と語った。

(2020年3月14日朝刊掲載)

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