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原爆ドーム周辺 高さ制限へ 広島市素案 北側に対象範囲

 広島市は19日、平和記念公園(中区)にある原爆ドームを南側から見た景観を保全するため、建物の高さを制限する範囲の素案をまとめた。原爆資料館本館の下からドームを見た場合の左右17度、ドーム北側に広がる奥行き最大5・2キロの範囲で高さを法的に制限する。周辺の樹木も生かして、ドームの背景に建物が見えない状態に誘導する。

 平和記念公園は原爆慰霊碑と原爆ドームが南北に並び、資料館付近から北側を眺める景観は特に重要とされる。市は「被爆地を象徴する眺望」と位置付け、都市計画法や景観法に基づく制限の導入を検討。その結果、左右17度の範囲での制限が適当と判断した。既存の建物は対象外だが、新たな規制は一帯のまちづくりに影響する可能性もある。

 素案によると高さ制限は視野角の17度のうち、原爆慰霊碑と原爆ドームを中心にした3・1度と、それ以外の2段階に区分する。3・1度の範囲内は原爆ドームの背景に当たるため、より厳しい内容とした。

 制限は、資料館からの距離が遠くなるにつれて緩やかになる。具体的には、資料館から0・5キロ離れた旧市民球場跡地付近では約24メートル、1・5キロの基町高層アパート付近では約63メートルとなる。制限がかかる奥行きは最大の5・2キロとなる。

 それ以外では平和記念公園の樹木の活用などで、背後にある建物を一定程度、眺望から隠せると判断。基町アパート付近では約81メートルなど、視野角の中心部と比べて制限を緩和する。地盤の高さなどを加味し、奥行きは東側で4・5キロ、西側で4・0キロとした。

 市は素案を、市役所でこの日あった市景観審議会の検討部会に示し、おおむね異論はなかった。検討部会は25日の市景観審議会に報告し、市民の意見を広く募る手続きを経て秋ごろに市へ答申する。市はその後、詳細な制度設計に入る。(久保田剛)

【解説】住民へ丁寧な説明を

 原爆ドームを望む南北軸線上で広島市が導入を目指す建物の高さ制限は、素案の作成で、導入に向けて大きく前進した。「被爆地ヒロシマ」を代表する眺望を次代につなぐ効果は大きいが、広い範囲で開発を規制するため、住民の権利の制約につながる。市には今後、制度の趣旨と内容の丁寧な説明が求められる。

 平和記念公園(中区)の原爆慰霊碑の背後に原爆ドームが重なる風景は、多くの観光客にとって絶好の撮影スポットだ。オバマ前米大統領が2016年、ドームを背景に語る姿は世界中で注目された。市はドームを南側から見た景観が「広島の象徴」として発信される意義を再認識した。

 市が06年以降に平和記念公園周辺で進めてきた建物などの高さ制限は、要綱を根拠としており強制力はない。一時は法的規制も検討したが、対象地域のマンション住民や地権者の反対で断念した経緯がある。

 市都市計画課は「対象範囲で必要に応じて説明会を開くなど、丁寧に住民の理解を得たい」と強調する。制度の意義を高めるためには、残した風景を平和の発信にどうつなげていくのかの創意工夫も必要となる。(久保田剛)

(2020年3月20日朝刊掲載)

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