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連載・特集

『生きて』 元自民党政調会長 亀井静香さん(1936年~) <15> 赤プリ5人組

小渕首相が倒れ森政権に

 今回は何が聞きたいんだ。「赤プリ5人組」のことか。小渕恵三総理が倒れた時、東京の赤坂プリンスホテルに俺や野中広務ら自民党の5人が集まり、森喜朗を次期総理に決めたって話だな。悪の密室政治のように言われているから、この際、舞台裏を語ろうじゃないか。

  ≪小渕首相が脳梗塞で倒れたのは2000年4月。小沢一郎氏が党首を務める自由党との連立解消を決めた直後に体調を崩したことから、心労がたたったとみられている≫

 自民、自由、公明の3党連立政権は確かに小沢に振り回された。小渕総理の病気との因果関係は別として、自民党や政府の幹部は急きょ赤プリの一室で当面の対応を話し合ったんだ。政調会長の俺と幹事長の森、幹事長代理の野中、参院議員会長の村上正邦、そして総理臨時代理となる官房長官の青木幹雄だ。

 「おまえが次をやったらどうか。幹事長もやっているんだから」と村上が森に水を向けた。森がまんざらでもない顔をするから、俺も「やりたいんだろ」と背中を押した。世間は密室政治だとか言ったけど、宏池会以外の各派閥の親分格が集まった。後日、両院議員総会も開いたし、謀議ではない。

 ≪その森政権も「神の国」発言などで支持率が低迷。00年11月、宏池会の加藤紘一会長が野党提出の内閣不信任案に同調する構えを見せる≫

 いわゆる「加藤の乱」だな。実は当時、森の後に幹事長に就いた野中も変な動きを見せたんだ。北海道で報道陣を前に「政権は代わった方がいい」と言いやがった。俺は電話で怒鳴りつけ、羽田空港の特別室を取り、帰ってきた野中をつかまえた。

 「幹事長が総裁の寝首をかくなんて絶対に許さねえぞ」。普段はこわもてで強気な野中も平謝りだ。ただ、野中はいずれ加藤に総理・総裁をやらせたいとも言った。なおも党からの加藤除名を求める俺に、野中は「3日待ってくれ。加藤の態度を改めさせる」と言い、党の役員会の場でも加藤に翻意させると約束した。

 ≪加藤氏は内閣不信任案を採決する衆院本会議に出ず、乱は不発に≫

 森は人柄はいいけど、どこか抜けているんだよな。加藤や野中に寝首をかかれそうになる寸前まで、気付かないんだから。

(2020年2月26日朝刊掲載)

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