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連載・特集

緑地帯 堀場清子 私を支える2本の脚 <7>

 1970年を迎える頃、性差別への女の怒りが発火点に達し、日本でもウーマンリブが燃え広がった。デモや集会で女たちが自由と主体性を要求し、ビラや冊子が多数作られたのも特徴という。

 私も82年から20年、詩と女性学をつなぐ「いしゅたる」誌を編集発行した。メソポタミアの大地母神から名付けた。表紙には書家篠田桃紅氏による題字を大きく刷り、裾にくさび形文字を飾った。最近読み返し、吐息した。「女の地位はまるで変わっていない」

 反戦・反核などを特集したが、明治時代のリブとも言える「青鞜」も特集した。当時「新しい女」と蔑視された女たちの子どもはどんな思いでいるのか。母を語る原稿を依頼するのに、私は内心ひるんだが、杞憂(きゆう)だった。愛情あふれる追想が次々届いて私は第一読者の至福に酔った。平塚らいてうや伊藤野枝の娘、原田皐月の息子、神近市子の息子らによって「青鞜」に集った女たちが生き生きとよみがえった。

 「青鞜」創刊80周年の記念特集もした。やはり女たちの子や孫、旧知の方々に執筆をお願いした。

 池山錞一氏が寄せた「『青鞜』に生きた母」は、一読者の生涯をつづる。夫の許さぬ読書をして、殴られ庭へ転げ落ちる。「青鞜」を油紙で包み、天井裏に隠した。戦争末期、空襲で焼かれた自宅跡で瓦を1枚1枚めくる女がいた。池山氏の母だった。「青鞜」の1字でも残っていないか捜していた。

 全国の読むさえ不可能だった女たち。だが性差別はいまに続き、真の解放は遠い。(詩人・女性史研究者=千葉県)

(2020年4月25日朝刊掲載)

緑地帯 堀場清子 私を支える2本の脚 <1>

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