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「歌で希望を届けたい」 バリトン歌手の今田さん 独唱会配信

四国五郎のメッセージ 高らかに

 広島市を拠点に活動するバリトン歌手の今田陽次さん(41)が、インターネットで「反戦詩画人 四国五郎を想(おも)う」と題した独唱会を無料配信し、原爆をテーマにした新曲を披露する。新型コロナウイルスの影響で声楽やコーラスの活動が中止に追い込まれている中、「歌で希望を届けたい」と願う。

 4年ほど前、広島の原爆で亡くなった弟への思いや戦争への怒りを絵や詩で表現した四国五郎さん(1924~2014年)の作品と出会い、衝撃を受けた。「広島の声楽家として思いを歌い継ぎたい」と決意。四国さんの遺族の許可を得て、西区の作曲家坪北紗綾香さんに作曲を依頼した「弟への鎮魂歌(抄)」を昨年発表し、大きな反響を呼んだ。

 来月、新たに四国さんの詩に曲を付けた「灯ろう流し」と「奪われたもの」(いずれも山下雅靖さん作曲)を東区での独唱会で初披露するはずだったが、コロナの影響で中止に。代わりに動画を撮影して公開することを決めた。

 「はなれないで 流れてゆきなさい おとおとよ…」で始まる「灯ろう流し」は、原爆の日の風景を描いた未発表の詩。四国さんにまつわる展覧会でこの詩を見つけ、強く心を引かれた。今後もライフワークとして四国さんの詩に向き合い続けるつもりだ。

 今田さんは江田島市出身で、祖母が被爆者。エリザベト音楽大(中区)で声楽を学んだ。ソロ活動のほか、広島中央合唱団やエリザベトシンガーズ、シニア大学混声合唱団など九つのコーラスグループで指導者や団員として活動している。

 全日本合唱連盟は4月10日、コロナの感染拡大を防ぐために「当面の間、合唱団の練習を取りやめるように」とのメッセージを発信。合唱コンクールの中止決定も相次いだ。今田さんが関わる全ての合唱団も活動を休止。隊長を務める「広島少年合唱隊」が今夏に予定していた海外公演も延期となった。

 「広島は合唱が盛んで、生きがいとして楽しむ高齢者が多い。そうした高齢者ばかりでなく、子どもたちの心もコーラスから離れてしまわないか心配」と危機感を募らせる。インターネットを通じての動画配信や歌唱指導で、少しでも現状を打開したいと考える。

 動画「四国五郎を想う」(約50分)は今田さんと、ピアノ伴奏者として山下さんが出演。30日午後5時から11時59分まで、動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開する。8月1~17日に再公開を予定している。(西村文)

(2020年5月28日朝刊掲載)

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