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連載・特集

ヒロシマの空白 被爆75年 国の責任を問う <8> 被爆2世

「遺伝」未解明 援護の外

生まれながら抱える「不安」

 原爆は、被爆者に健康不安や病気の苦しみを一生背負わせてきた。さらには、生まれ出る前の命にも放射線被曝(ひばく)を強いた。被爆者健康手帳を持つ「胎内被爆者」は、昨年3月末時点で6979人。その中で、妊娠初期に強い放射線を浴びた母親から生まれ、知的、身体障害を伴う「原爆小頭症」の被爆者は少なくとも18人いる。

 原爆を含む核兵器が「最悪の非人道兵器」と言われる大きな理由は、戦争と何の関わりもない世代まで巻き込むからである。では、「被爆2世」についてはどうなのだろうか。

 日米共同運営の放射線影響研究所(広島市南区)は、前身の原爆傷害調査委員会(ABCC)から70年以上、被爆者調査を続ける。2世についても死亡率や病気の発症率の調査をしている。ホームページの「よくあるご質問」には「これまでの限りでは遺伝的な影響は見いだされていない。しかし…結論を出すには、更に数十年が必要だと思われる」とある。

 「私たちは、不安が解消されないまま生き続けなければならないのでしょうか」。小学校教諭の平野克博さん(62)=廿日市市=は憤る。広島と長崎の労働組合関係者らが活動する全国被爆二世団体連絡協議会(二世協)の事務局長だ。

 母フクエさんは20歳で入市被爆し、13年後に平野さんが生まれた。やはり2世のいとこが30代で亡くなるなど、身の回りで起こる出来事に不安を持った。母は、平野さんを生む前と後に、身ごもった子2人を失っている。全てを打ち明けてくれたのは、2009年に亡くなる直前だった。

 2世が抱く「不安」―。米占領期に設置され、米軍の意向を調査に反映させていたABCCも、「遺伝的影響」の有無に強い関心を注いだ。1948~54年、ABCCは広島と長崎で約7万7千人を対象に新生児調査をした。死産だったり、生後すぐ死亡したりすると助産師に報告させて遺体を引き取り、臓器標本やカルテを作成。米陸軍病理学研究所(AFIP)に送った。

被爆者援護と別
 二世協は全国に30万~50万人の2世がいると推定する。厚生労働省は「健康不安」への対応として、79年度から無料で年1回の健康診断を受けられるようにした。とはいえ血液・尿検査や問診程度で、多発性骨髄腫の検査が最近加わったぐらい。しかも被爆者援護とは別の措置と位置付ける。

違憲と集団提訴
 二世協はがん検診なども要望しているが、厚労省は「被爆2世への健康影響は科学的に確認されていない」と応じない。平野さんたち約50人は2017年、国が2世への援護措置を怠っているのは違憲だとして、広島地裁と長崎地裁に集団提訴した。「影響がない、と言い切れない以上は被爆者援護として2世を支援すべきだ」と平野さん。

 地域によっては独自の制度を設けている。東京都には年1回の無料がん検診があり、一定の条件を満たせば医療費の自己負担分が無料になる。神奈川県も同様に、一部の疾病に対し医療費を助成している。

 被爆地広島、長崎の両県市は「国がすべきだ」という立場。自治体単独の制度はなく、健康診断の充実などを国に要望している。

 2世の施策を都に要請してきた東京の被爆者団体「東友会」相談員の村田未知子さん(69)は「本来は戦争を始めた国が責任を持つべき問題。地域格差があってはならない」と訴える。一方で差別などを恐れ、問題が顕在化することを望まない人たちもいるという。

 健康影響があるかどうかは解明されていないという「空白」。生まれながらに不安を背負うが、「援護」の外に置かれたままだ。かといって、当事者の胸の内は一様でなく、親の被爆状況も千差万別。国は2世の思いにどこまできめ細かく対応するのか。戦争被害との向き合い方としても問われている。(山下美波)

(2020年5月29日朝刊掲載)

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