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原爆症 二審は5人認定 広島高裁 6人 再び敗訴

 被爆の影響で心筋梗塞や甲状腺機能低下症を患っているのに原爆症と国が認めないのは不当として、被爆者11人が原爆症の認定申請の却下処分の取り消しなどを国に求めた訴訟の控訴審判決で広島高裁の三木昌之裁判長は22日、5人の却下処分を取り消し、原爆症と認めた。6人については一審広島地裁判決を支持し、請求を退けた。

 病気が放射線に起因し、医療が必要な状態と認められるかが争点。三木裁判長は、5人が被爆当時1~13歳だったことから「若年で放射線に対する感受性が高かった」と指摘。「放射線に被曝(ひばく)したことにより発症したとみるのが合理的」とし、放射線起因性があると判断した。治療が必要な状態が続いているとして要医療性も認めた。4人は甲状腺機能低下症、1人は急性心筋梗塞について起因性を認定した。

 一方、残る6人に関しては「発症に影響を与える程度の放射線に被曝したといえるか疑問。喫煙などの生活習慣に基づき発症した可能性を合理的に否定することはできない」などとして訴えを退けた。

 原告は広島や廿日市市に住む70~90代の男女11人。訴状などによると、原爆が投下された1945年8月6日か、その直後に爆心地から1・2~4・1キロで被爆するか入市被爆し、甲状腺機能低下症や心筋梗塞など認定対象の七つの特定疾病を発症し、2005~14年に原爆症認定を国に申請。却下されたため10年以降に順次提訴した。地裁は17年に全員の訴えを退ける判決を言い渡した。

 この日の控訴審判決後、佐々木猛也弁護団長は「この判決を機に、行政は被爆者の立場に立った姿勢に転換してほしい」と強調。認められなかった6人について上告を検討するとした。厚生労働省は「判決内容を精査し、今後の対応を関係省庁と協議したい」とコメントした。(松本輝)

原爆症認定制度
 原爆の放射線で病気になり、治療が必要と認めた被爆者に国が月約14万円の医療特別手当を支給。1957年に制度化された。申請を却下された被爆者の集団訴訟が相次ぐ中、国は2008年に認定要件を緩和。被爆距離などの条件付きでがんや白血病など五つの特定疾病を積極認定する審査基準を導入した。09年に特定疾病に甲状腺機能低下症など2疾病を追加。13年末にも基準を見直し、同低下症や心筋梗塞は爆心地から約2キロ以内で被爆した人を積極認定するなどとした。

【解説】線引き要件 再考急ぐ時

 国が原爆症の認定申請を却下した5人の被爆者について広島高裁は22日、被爆時の年齢や被爆距離、推定被曝(ひばく)線量を総合的に検討し、原爆症と認めた。国は、病気が放射線に起因するかどうかを認定要件にしているが、被曝と発症の関連性は科学的に解明されていない部分も多い。国は高裁判決を受け止め、認定要件の見直しを急ぐべきだ。

 判決は「放射線が人体に与える影響は科学的に解明されていない」「科学的知見にも一定の限界がある」と指摘。一審広島地裁判決が言及しなかった点にも踏み込み、一人一人の状況を精査し、5人を原爆症に認定する判断を導いた。

 国は2008、09、13年と段階的に対象疾病の追加や被爆条件の設定など審査の基準を緩和し、積極認定の姿勢を見せてきた。しかし、そのたびに手を差し伸べられなかった被爆者が提訴し司法に救済を求めた。弁護団によると08年以降、8割以上で勝訴している。この結果は、放射線が人体に与える影響が解明されていない以上、認定の可否の「線引き」の根拠は説得力に欠けると司法が警鐘を鳴らし続けてきたといえる。

 原爆投下から今年で75年。被爆者たちに裁判闘争で疲弊を重ねる時間は残されていない。一人でも多くの人に救済が届くよう、認定要件の根本的な見直しを議論する時期に来ている。(松本輝)

(2020年6月23日朝刊掲載)

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