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社説・コラム

『潮流』 消えない不信感

■防長本社編集部長 片山学

 国防を理由に土地が別の用途に利用されないか―。地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」配備計画が撤回された3日後、山口県内の計画に反対する住民グループが開いた集会で、懸念の声が相次いだ。計画撤回を受けた「勝利宣言」も読み上げられたが、国への不信感がくすぶり続けている。

 陸上自衛隊むつみ演習場(萩市、阿武町)への配備断念は、ミサイルの発射後、推進補助装置(ブースター)を演習場に安全に落とせるめどが立たないとの理由だ。住民が再三その危険性を指摘してきたが、国の回答は「確実に落とせる」から「100%ではない」に変わった。「まだまだ真相は分からない。疑惑は追及しなければ明かされない」との声に、山口市内の会場に集った参加者から拍手が起こった。

 候補地とされてから2年余り。署名活動や国への申し入れなどの活動を振り返り、「勝ってかぶとの緒を締めよ」と結んだ。森上雅昭代表は「地元は賛成派と反対派に分断させられた。それに区切りを付けたかった」と強調した。

 配備計画の撤回を受け、国は「敵基地攻撃能力」保有も含めた安保政策の議論を始めた。憲法9条に基づく「専守防衛」にも抵触しかねず、一足飛びの感は否めない。イージス・アショアの「適地」と1度は認定されたため、「先制攻撃の基地になるのでは」と、住民たちは不安を募らせる。持つべきは攻撃能力ではなく、平和を進める外交力だと訴える。

 住民たちは、活動を記録し検証するという。国策に翻弄(ほんろう)され続けた地域が、まちづくりへ踏み出す一歩とする考えだ。技術上の不備などの指摘がありながら「配備ありき」で突き進んだのは国である。拙速な計画について検証し、住民の不信感を取り除くためにも説明を尽くすべきだ。

(2020年7月7日朝刊掲載)

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