×

社説・コラム

『この人』 「ヒロシマ・アピールズ」ポスターを制作したグラフィックデザイナー 渡〓良重(わたなべ・よしえ)さん

 大きく開いた少女の目。真っすぐな目線は、見た人の心を見透かしているかのようだ。「欲望が渦巻く世の中で、負けない強い心を持った少女を描いた」

 被爆75年の節目となる今年のテーマを「平和を創り出す原点の『いのち』」にした。新型コロナウイルスの影響で多くの人が亡くなっている今、命とは何か、常に考えているという。

 制作の打診があった時、引き受けるかどうか迷った。「コロナ禍で明るい未来が見通せず、平和を訴える作品を手掛ける意味が見いだせなかった」。1983年に1作目を担った故・亀倉雄策さんが残した文章を読み、ポスターを通じて反核や戦争の悲しさを訴える「ヒロシマ・アピールズ」の思いを知った。「私も同様の作品を生み出したい」と決心した。

 キャンバスに向かい、真っ先に思いついたのが、少女の顔だった。頭の中のイメージを2日間で一気に描いた。

 描き終えた直後、病気だった母親を86歳で亡くした。作品の少女が、台湾・台南市で生まれて日本統治時代を過ごした母親の姿と重なった。「母の一生を思った。1人の人間が生き抜くことがどれほど難しく素晴らしいか。創作と母のみとりから考えさせられた」と振り返る。

 周南市出身で、大学卒業までを山口県内で過ごした。2012年に東京都内でファッションブランドを立ち上げ、絵本の挿絵やデザインなどを手掛ける。平和を強く意識した制作は今回が初めてで、作品には「世界中の人が命を輝かせて生きてほしい」との願いも込めたという。

 東京都渋谷区で暮らす。(新山京子)

(2020年7月9日朝刊掲載)

※名字は「一点しんにょう」の 「邉」 です

関連記事はこちら

少女の瞳 平和訴え 「ヒロシマ・アピールズ」ポスター発表

年別アーカイブ