×

ニュース

はだしのゲン アラビア語に エジプト・カイロ大教授、広島大留学時に始め全巻翻訳

「被爆の実態 母国に伝えたい」

 被爆後の広島を生きる少年を描いた漫画家故中沢啓治さんの「はだしのゲン」10巻を、カイロ大のマーヒル・エルシリビーニー教授(60)=日本語学=がアラビア語に翻訳した。約5年かけて全巻の翻訳を終え、エジプトで出版された。

 エルシリビーニー教授が翻訳を始めたのは、1992年に博士号を取得するため広島大文学研究科に留学したことがきっかけだった。原爆資料館や原爆ドームを訪れて「被爆の実態を母国の人に伝えたい」と思い立った。

 「はだしのゲン」なら子どもにも分かりやすいと考え、2015年1月に第1巻を出版。4カ月後の同年5月から約1年間、広島大に特任教授として着任した際も、研究の合間に作業を進めた。

 「例えば、ゲンが原爆で犠牲になった人に読んだお経や、げたの音をどのように訳せばいいのか悩んだ。戦時中の生活や文化の違いを学んだ」と振り返る。同大教授らの助言を受けながら、16年4月に全10巻の翻訳を終えて帰国。校正を重ね、今年2月、全巻出版にこぎ着けた。

 アラビア語版はB6判よりやや大きいサイズ。1冊当たり90エジプトポンド(約600円)で販売している。金沢市の市民団体「プロジェクト・ゲン」(西多喜代子代表)の協力を受け、現地の公立図書館や学校に寄贈した。エルシリビーニー教授は「中東は戦争が身近にある。核兵器を使うとどんな被害が出るのか理解し、平和の尊さを感じてもらいたい」と話している。(新山京子)

(2020年7月14日朝刊掲載)

年別アーカイブ