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原爆テーマ 未発表の脚本 菊島隆三さん書き残し「広島の二人」 保坂監督が小説化

日米兵士 数奇な運命

 黒澤明監督とのコンビで「野良犬」「天国と地獄」などの映画を世に送り出した脚本家の菊島隆三さんが、広島の原爆をテーマにした脚本を書き残していたことが分かった。1966年に準備稿として完成させていたが映画化は実現せず未発表となっていた。脚本を託された映画監督の保坂延彦さん(75)が被爆75年の節目に小説化し、脚本と同じ題名「広島の二人」(ジェイコード)で22日に出版される。(山中和久)

 原爆投下前夜。「安芸の浦俘虜(ふりょ)収容所」を脱走した米兵アーサーと単身で連れ戻しに向かった藤田軍曹は追いつ追われつの中で徐々に心を通わせる。翌朝、広島の街にB29爆撃機が原爆を落とす様子を山腹から見た2人。藤田は広島に暮らす妻子を案じ山を下りた。日本が降伏後、アーサーは藤田を捜し廃虚を歩く―。

 数奇な運命をたどった藤田の娘ミツ子の回想を保坂さんが書き下ろし、その中に脚本を織り込む構成にした。回想と脚本を行き来しながらミツ子が自分という存在を見つめ直す物語とし、核兵器の悲惨さや不条理さを問い掛ける。

 菊島さんと保坂さんは同じ山梨県出身。監督デビュー作にと、保坂さんが赤い表紙の「広島の二人」を渡されたのは81年だった。映画事業に進出していたサンリオが日米双方の視点から製作し、日本側の監督を保坂さん、米側の監督をロバート・レッドフォードさんが務める構想で進んだ。

 だがテーマが原爆であることや多額の製作費が想定されたことから暗礁に乗り上げた。保坂さんはその後も映画化を模索したが実現しなかった。菊島さんは89年に亡くなり、その3年後には共同執筆者の安藤日出男さんも他界した。

 保坂さんは今年1月、出版社社長の春山雅昭さん(61)に脚本の存在を知らせた。春山さんは小説にすることを提案。「読んで映像が浮かぶような作品になった」と言う。

 ただ菊島さんがなぜ広島原爆を題材にしたのか分かっていない。保坂さんは「それを埋めることが小説にする原動力になった」と語り、「原爆を過去の話にしたくない。今に引き寄せて考えてもらうことが菊島さんの思いと重なるはず」と話している。1650円。

(2020年7月20日朝刊掲載)

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