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連載・特集

被爆75年 岐路の被爆者団体 <1> 継承広島 細る担い手

 「慰霊」と刻まれた碑にむしたコケの緑が、強さを増す雨の中で濃く映えていた。6日、安芸高田市向原町の丸山公園。向原町原爆被害者友の会会長の玉川祐光さん(87)が「いつもなら追悼式に向け、みんなできれいにしとるんですが」と寂しげにつぶやいた。

 友の会は原爆投下から75年目となる8月6日に解散する。解散を決めた2017年、会員の反応は「やむを得ない」との反応が大半だった。記録によると会員数は1986年時点で540人を数えたが、年を追うごとに減り、現在は135人にまで減少。実際に運営に関わるのは数人にとどまっていたという。

 活動の柱の一つとして向原で最期を迎えた人たちの慰霊を据え、追悼式を営んできた。最後と決めた今年、新型コロナウイルスの影響で追悼式の開催を断念。新たな感染症の脅威が終幕に影を落とす形となったが、玉川さんは「胸の内で悼めばいい」と自分を納得させた。

 気がかりなのは慰霊碑の行く末だ。「百数十柱」の犠牲者の記憶を宿す碑を誰が管理し、語り伝えてくれるのか。託す相手だけは、会長の最後の責務として見つけるつもりでいる。(明知隼二)

足元の解散 慰霊碑だけは守りたい

 安芸高田市向原町の丸山公園にたたずむ慰霊碑は、向原町原爆被害者友の会の有志が1981年に建立した。当初は、向原町内にあった原爆の犠牲者の火葬場の跡に置かれ、95年に現在地へ移った。「医薬品皆無の状態の下悶死された犠牲者は百数十柱に及んだ」。碑の銘文はそう刻む。

 友の会は65年、家族を捜して入市被爆した人や、向原国民学校(現向原小)に運び込まれたけが人の救護をした人を中心に結成された。会員同士の支え合いや親睦を軸に活動を重ね、向原で最期を迎えた人たちの慰霊にも力を注いできた。

役割胸に刻む

 友の会の会長を2011年に引き受けた玉川祐光さん(87)は、古い住民から「くべる木が足りなくなるほど火葬が続いた」と聞かされていたという。碑を守り、慰霊を続けることが自らの役割だと胸に刻んできた。自身の被爆体験が、その思いを強くさせた。

 広島二中(現観音高)1年の時、西条町(現東広島市)の自宅から建物疎開の作業に向かう途中、爆心地から約2キロの広島駅前(現南区)で被爆した。顔や手にやけどを負ったが、1日かけて自宅にたどり着き、命をつないだ。

 しかし、中島新町(現中区)の作業現場にいた同級生は全滅した。後に亡くなった人を含めて、母校の慰霊碑には同級生323人の名前が刻まれている。

 一緒に被爆した近所の同級生の母親の姿が忘れられない。何度も玉川さんを自宅に訪ね、必死の形相で「うちの子は」と迫った。行方不明の息子の手掛かりを求め、広島駅に通い続けたとの消息も聞いた。「向原で亡くなった人にも家族がいた。一体どれほど必死に探したことか」。遺族の無念さが刺さった。

 会員の減少や高齢化を理由に、今年の原爆の日に解散する友の会。丸山公園の慰霊碑の前で営んできた追悼式は、新型コロナウイルスで中止を決めた。結果として最後の営みとなった昨年8月3日の追悼式には13人が参列。「絶対に戦争はあってはいけない。非人道的な原爆はもってのほかだ」との思いを共有した。

難しさは理解

 玉川さんは友の会の存続に向けて「被爆2世に引き継ごうとした時期もあった」と明かす。だが、担い手は見つからなかった。自身も広島を離れて商社などで多忙な日々を過ごし、友の会に加わったのは退職を機に帰郷した92年だった。現役世代が活動に関わる難しさはよく分かっている。

 厳しい状況は周辺も同様だ。6町の合併で安芸高田市が誕生した04年には、旧町単位で団体があった。その後、05年に旧美土里町の団体が解散。15~16年には甲田、八千代、高宮、吉田でも、高齢化を背景に相次いで活動を終えた。高宮は一部有志によって新団体に引き継がれているが、被爆者運動の「足元」の広島でも継続は厳しさを増す。

 友の会の先人たちは、名前も分からないまま亡くなった人たちの存在をせめて後世に伝えようと活動してきた―。玉川さんはそう感じている。自らも「平和を願い、やれるだけのことはやってきた」と思える。だからこそ、会が解散した後も「この慰霊碑だけは守ってほしい」と願っている。(明知隼二)

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 米国による原爆投下から間もなく75年を迎える。各地の被爆者団体は、傷ついた者たちの助け合いの場として、また被爆者援護や核兵器廃絶を訴える運動体として、活動を積み重ねてきた。しかし、中国新聞社が全国の被爆者団体を対象に実施したアンケートでは、被爆者の老いが団体の存続を厳しくしている実態が浮かんだ。被爆者たちの半生と重なり合いながら刻まれてきたその歴史をたどり、未来を展望する。

(2020年7月21日朝刊掲載)

被爆75年 岐路の被爆者団体 <2> 細る営み

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