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ピース・シーズ

Peace Seeds ヒロシマの10代がまく種(第23号) 安保法 中高生も考えた

 安全保障関連法が9月に成立しました。戦後70年の節目に、これからの日本の立ち位置が大きく変わっていきそうです。私たち中高生も、これから影響(えいきょう)を受ける可能性があります。でも、私たちは、どれだけ安保関連法について知っているのでしょうか。どのように考えているのでしょうか。政治の話はとかく難しいと捉(とら)えがちで、友達と話す機会も普段(ふだん)はあまりありません。

 自分たちの将来を左右するかもしれない法律について、ジュニアライターが通う学校や友達、きょうだいたちに意見を寄せてもらいました。「安保関連法の中身がよく分からない」「決め方が強引」「国際情勢に合わせて必要」「決まったから仕方ない」「要らない」…。いろんな声を聞きました。みんなの関心が高いことも知りました。けっして遠い世界のことではないと思います。私たち若い世代も、安保関連法について学び、議論し、関心を持ち続けたいです。

<ピース・シーズ>
 平和や命の大切さをいろんな視点から捉え、広げていく「種」が「ピース・シーズ」です。世界中に笑顔の花をたくさん咲(さ)かせるため、小学6年から高校2年までの45人が、自らテーマを考え、取材し、執筆(しっぴつ)しています。

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私たちは当事者 関心持ち続けたい

■ジュニアライター座談会

■参加者

高2高矢麗瑚、谷口信乃、山下未来、中2岡田日菜子、中1斉藤幸歩

法の中身がきちんと伝わっていない

自衛隊志す人 減るのでは

軍拡競争が心配だ

正解は一つじゃない もっと議論しよう

●認知度は

  ―安保関連法について、中高生は、どのくらい知っているのでしょうか。
 A あれだけテレビや新聞で話題になっていたのに、成立を知らない人が、私が思っていたよりも多かった。

 B 実際、ニュースを見ても取っつきにくかった。私も、法律の内容が難しくて、テレビのチャンネルを変えたくなった。もう少し分かりやすく説明してほしかった。

 C 広島は平和学習をしている学校が多い。全国に比べたら関心を持っている中高生は多いのではないかと思う。

 D 私の学校では「集団的自衛権」などの言葉が社会科のテストに出た。中身は分からないけど、言葉だけは知っている人もいる。

 A 他国の軍隊に対する弾薬・燃料補給などの「後方支援(こうほうしえん)」のため、自衛隊を海外に随時派遣(ずいじはけん)できるようにする点について、「これまでにも行ってるんじゃないの」と言う人もいた。法の中身がきちんと伝わっていない部分もあるのでは。

●中高生の意識

  ―集団的自衛権を行使したり、後方支援のために自衛隊を派遣したりした場合、「命の危険」が伴(ともな)うと考える中高生が多いようでした。ただ、自ら行くのは嫌(いや)だけど、自衛隊が行くのなら認める、という傾向(けいこう)もあるようです。
 D 中高生にとっては、当事者意識が持ちにくいのではないか。「私たちが行くのではない」という反応もあった。

 C もっと考えないといけないと思うけど、憲法については中学3年で習うから、まだ難しくて分かりにくいと感じる人もいるのでは。

 A 「リスクが高まらない」はずはないと思う。武力攻撃を受けている所に行くのだから。みんな分かっている。集団的自衛権を行使できる基準もあいまいで、不安も高まる。急いで決めすぎたという批判は当たっていると感じる。  B 自衛隊に憧(あこが)れている友達がいるけど、命の危険があることをこれまではあまり意識していなかったみたい。

 E 自衛隊の志願者が減るかもしれない。そうなったら、国もいろいろ対策を考えるのではないか。

 A 経済的な優遇措置(ゆうぐうそち)を設けた志願兵の制度が始まるかもしれない。

●影響は

  ―安保関連法の影響については大人でも意見が分かれています。不安に思う人たちは「中国、北朝鮮、ロシアとの関係が悪くなり、日本が戦争に巻(ま)き込(こ)まれる可能性が高まる」「米国の言う通りに従う傾向が強まる」と言います。一方で「中国、北朝鮮、ロシアへの抑止(よくし)になり、日本が戦争に巻き込まれる可能性が減る」「米国との関係が対等になる」との主張もあります。
 C 国は否定しているけれど「徴兵制(ちょうへいせい)が始まるかもしれない」と思っている人もいる。

 E 安保関連法が成立した時、中国やロシアは批判的だった。抑止というより、互(たが)いに軍事力を拡大する競争になっていくのではと心配だ。

 C カナダからの留学生は「どうしてそこまで米国についていくんだろうか。植民地みたいと思った」と言っていた。米国との関係がさらに強まるのだろうか。

 A 「紛争地(ふんそうち)で活動している日本のNGO(非政府組織)が攻撃(こうげき)の対象になる可能性が高まる」と不安に思う人もいる。

 E 日本は第2次世界大戦後、戦争を放棄(ほうき)し、平和国家として世界の信頼(しんらい)を得てきた。でも、戦争に積極的に関わらないという日本の姿勢は揺らいで見える。1月に日本人2人が過激派組織「イスラム国」に殺害されたとみられる事件の背景にもなっていると思う。イスラム国は、日本が欧米の対イスラム国政策に協力している、と批判していた。

 D 国際貢献(こうけん)に対する米国などからの評価は高まると思う。でも、世界中全ての国が評価するわけではないだろう。難しい問題だ。

●今後するべきことは

  ―これから中高生はどう考え、どう行動したらいいでしょう。
 B 自分たちも、もっと社会の動きを知らないといけないと思う。学校や国は、もう少し分かりやすく説明してほしい。

 C 難しいことは政治家に任せておけばいい、という「人任せ」の姿勢が今回の採決の強行を招き、「いつの間にか決まっていた」という感想にもなるのではないか。私たちの当事者意識が大切だ。

 D 来年、18歳から選挙権が持てるようになる。みんなが自分で判断できるようにならないといけない。

 E 教科書の丸暗記じゃなく、そこに出ている考え方や背景まで知り、本質を理解することが大事だと思う。正解は一つじゃないはず。学校でも、もっと議論し合った方がいい。

 A この法律の影響を受けるのは、主に自分たち若い世代。私たちはニュースの中から情報のポイントを選び取る力を付けたい。政治を行う側も、私たち若者の意見を聞いてほしい。

■寄せてもらった意見から

◆武力以外に平和を築く方法がないのかもっと考えてほしい。(高3女子)

◆もしAさんがBさんをいじめていて、私がBさんの方につきAさんに仕返ししたとすると、いじめはなくならない。世界で起こっていることも同じだと思う。(中1女子)

◆ニュースや新聞だけで理解するのは無理。学校で授業してほしい。(高2男子)

◆未来につながることだから、将来大人になる私たちの世代にも聞くべきだ。(中2女子)

◆自国が危険になるからと反対するのは自己中心的。もっと世界に貢献するべきだ。(高1男子)

◆「平和を守るため」でも戦争は間違っている。(中3女子)

◆あっという間に決まってしまった。国民にもっと聞いてほしかった。(中2女子)

◆米国のいいなりになっているよう。憲法第9条をはじめ平和について考えるべきだ。日本は被爆国であり加害の歴史もある。軍事支援はどんな形でもいけないと思う。(高2女子)

◆賛成だけど、「自衛隊」を「自分」に置き換えると素直に「賛成」とはいえない。(高2男子)

◆少し難しいので意見を出すのは無理。(中2男子)

◆この法を「戦争法」というのは間違っていると思う。「戦争」ではなく「防衛」。日本の戦時中のようになる、というのはあり得ない。(高2女子)

◆米国などといい関係でありたいというのは分かるけど、やっぱり、戦争のない日本で安心して暮らしていきたい。(中1女子)

(2015年12月10日朝刊掲載)