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ピース・シーズ

Peace Seeds ヒロシマの10代がまく種(第50号) アートで平和発信

 核兵器廃絶の願いを伝える方法は、さまざまあります。芸術で広めるのも、方法の一つです。中国新聞ジュニアライター15人は10月29日、被爆地からアートで平和を発信した「ヒロシマ・ナガサキ ZERO PROJECT」に参加しました。写真や音楽、映像、Tシャツ、詩、絵の中で思いを表現しました。

 広島国際文化財団が協賛するこのプロジェクトは、米国のNPO法人「1Future」が呼び掛(か)けました。代表のキャノン・ハーシーさん(40)は原爆被害をいち早く世界に訴(うった)えたジャーナリスト、ジョン・ハーシーの孫です。今回はさまざまなアーティストや市民と協力して、広島市中区の妙慶院を主な舞台(ぶたい)に作品を制作しました。

 心の中の気持ちを、多くの人にアートで伝えようと試みる作業は、自分と向き合う時間になりました。これから言葉の違(ちが)いを乗り越え、世界の人と理解し合うきっかけになればと思います。

<ピース・シーズ>
 平和や命の大切さをいろんな視点から捉(とら)え、広げていく「種」が「ピース・シーズ」です。世界中に笑顔の花をたくさん咲かせるため、中学、高校生の25人が自らテーマを考え、取材し、執筆しています。

紙面イメージはこちら

私もヒロシマの表現者

≪写真≫

折り鶴 広がる願い重ねる

 秋空の下、平和記念公園に飛び出し、平和にちなむ物を写真に収めました。原爆資料館の周辺や原爆の子の像、原爆ドームなどを1時間半かけ、思い思いに巡(めぐ)ります。自分が「これは」と感じたら、スマートフォンのカメラを使って撮(と)りました。

 広島の写真家、高田トシアキさん(55)に教わり、けなげに咲く花、雲の浮かぶ空、白い石畳(だたみ)、カメラを構えるメンバーの姿などにレンズを向けます。画像は写真共有アプリ「インスタグラム」から、共通のハッシュタグをつけて投稿(とうこう)。アップされた写真を、妙慶院に用意したプリンターで印刷しました。各自でお気に入り作品ベスト5をパネルに張(は)り発表しました。

 原爆の子の像にささげられた折り鶴の写真などを選びました。一羽一羽は広島県内外の人が、気持ちを込(こ)めて折ったもの。多くの鶴が集まった様子は、平和への願いが広くつながっているようなイメージを与(あた)えてくれました。

≪音楽≫

身近な「楽器」でハーモニー新鮮

 身の回りで音の出る材料を探しました。紙コップや、近くの平和大通りに落ちていた小石や木の枝、ドングリなど、意外なものも「楽器」です。見つけ出したら自分でリズムを即興(そっきょう)でつくり、振(ふ)ったりたたいたりして、どんな音が出るか調べます。最後は全員で輪になって音を出し合い、一つの曲を作りました。

 名付けて「広島トライバル(民族的な)ミュージックバンド」。講師の大阪市の音楽家、岡野弘幹さん(53)の合図で一人一人が音を重ねていくと、心が弾(はず)むような躍動(やくどう)感のある曲が演奏できました。岡野さんは「物をたたくなどして音を楽しむことが音楽本来の姿。みんなで耳を澄(す)ませ音を聴(き)き合うことは世界平和につながる」と話します。

 私たちには新鮮(しんせん)な体験になりました。終わった後のメンバーの笑顔は忘れることができません。みんなと喜びを共有することで世界平和は実現が可能なんだな、と思いました。

≪映像編集≫

手書きでPEACE 呼び掛け

 米国ワシントン州にあるオリンピック大の教授、ピーター・ビルさん(47)に教わって、プロジェクションマッピングを作りました。被爆樹木や原爆ドーム、広島の街並みなど、あらかじめ収録された映像に、自分たちで書いた平和メッセージを加えました。

 実際に筆ペンを使ってメッセージを書く手元を撮影(さつえい)し、編集ソフトで映像と合成します。平和記念公園の映像を背景に、「PEACE」などと英語で書きました。他の人も「平和」という漢字や笑顔のマークをあしらい、一つのオリジナル作品に仕上げました。

 完成作は夜、ライブコンサートのあった元安川親水テラスで上映されました。作品自体は短い時間になりましたが、制作には自分たちが関わった部分だけでも半日かかりました。その分、平和についてゆっくり考えることができました。

≪Tシャツ 詩・絵≫

 シルクスクリーンを使ったTシャツ制作のチームでは、被爆樹木などをデザインした約20枚の版から、好きな柄(がら)を選んでプリント。米国の芸術家キャノン・ハーシーさんが言うには、印刷のずれも「個性」です。

 「平和(Peace)行き」の電車の切符(きっぷ)をイメージしたオリジナルも作ることができました。自分なりに平和をどう表現するか考える機会になりました。

 詩のチームはミュージシャンの佐野元春さん(61)が講師。よりよい明日▽大事な君▽届かない声▽痛みと怒(いか)り―をテーマに個人で詩を作り朗読、感想を述べ合いました。佐野さんは「読み手に共感を与(あた)える詩を作ろう」と強調します。言葉一つ一つの意味と力をじっくり考えることができました。

 「平和のために何ができるか想像力を働かせて」と話してくれたのはイラストレーターの黒田征太郎さん(78)です。袋町小(中区)で一緒に絵を描きました。復興した広島の街や、原爆のきのこ雲を逆さに見立てたフラスコの中に平和な地球を閉(と)じ込(こ)めた姿など、自由にペンを走らせました。

  ジュニアライターが作った詩はこちら

 プロジェクトでは、人間▽環境▽仲間▽社会―の四つのテーマで話し合う場も設けられました。

【人間】
 核兵器廃絶について、ネット中継で参加した元米国防長官のウィリアム・ペリーさん(90)は「学ぶことが第一のステップ」と言っていました。一人一人が「核兵器はどんなものか」「どういった仕組みか」「世界の中でなぜ核を保持している国があるのか」について学び、知識を友達や知り合いに伝えることで、だんだん核について正しい知識を持つ人が増えるからです。

 10代が核兵器廃絶を訴えていき、実現に向けた光を常にともしておかないといけません。核兵器が存在しない未来を目指さねば、とペリーさんは話しました。

【環境】
 被爆樹木について話しました。被爆後もなお、広島で生き続けている木は31種類、160本あります。その中で、被爆当初からずっと同じ場所にある木は、全て先が爆心地を向いています。これは「木の声」なのだと、NPO法人ANT―Hiroshima(広島市中区)理事長の渡部朋子さん(63)は例えました。参加者からは「木は爆心地から反れるように生えているかと思った。木の生命力はすごい。私たちも見習いたい」と意見が出ました。

 2015年に初めて広島を訪れたキャノン・ハーシーさんは、今後すべき三つのことを話しました。自分で勉強をする▽聞いた話をみんなに伝える▽忘れないためにどうしていくかを考える―ことです。私たちもこの三つを大切にしていきます。

【仲間】
 「仲間とは何か」というテーマで話し合いました。困っている時に助けてあげたり、努力を尽くしたりする関係のある人です。縁がある動物や樹木も含み、くねくね、ごちゃごちゃといろんな形で広がっていくものもあるという意見も。もしその仲間とけんかしたらどうするかも、話しました。参加者の年層幅や国籍がとても広かったので、いろんな意見を知ることができました。この経験は、平和を築く基礎になるんだと思いました。

【社会】
 NHKで「里山資本主義」「里海資本論」の番組を手がけた井上恭介さんを中心に、意見交換が進みました。井上さんは、現代において人間は経済優先ではなく、自然を敬いながら経済活動をする社会にしなければいけないと強調しました。話し合いでは、日本は自然と長く共生してきた国なので、空き家を活用して住宅地と自然の距離を縮めていくという意見や、インスタグラムを活用して若者と自然を近づけるという提案が上がりました。

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ピース・シーズ50号

創刊から参加する岡田実優(高2)

10代向け テーマ工夫 取材通じ思いも深める

 「ピース・シーズ」は、被爆70年の2015年1月に始まり、今回で50号を迎(むか)えました。私たち10代ならではの視点で、平和について問題を切り取り、伝えています。

 毎回自分たちでテーマを考え、取材、そして原稿(げんこう)の執筆(しっぴつ)を続ける「ピース・シーズ」。創刊号から関わってきた私が最も大切だと思うのは、どんな取材テーマにするか、ということです。

 平和を中心に、幅(はば)広くみんなで案を出し合います。原爆や戦争にストレートに向き合うだけでなく、折り鶴や歌、花などさまざまな角度からもアプローチ。一番悩(なや)んだのが、漫画(まんが)をテーマに決めた第33号でした。同世代に親しみやすい内容ですが、作品数が多く、どこに焦点(しょうてん)を当てるか議論を重ねました。最終的に戦争体験のない漫画家が原爆をどう表現しているか、取材することに決めました。

 毎回、普段(ふだん)関わることのない人や立場の違(ちが)う中高生に話を聞けるので、自分も新しい視点を持って、思いを深めることができます。これからも、10代が身近に平和を考えてくれるような紙面を作っていきたいです。

これまでの主なテーマ

・被爆100年 2045年の広島
・ホロコーストを学ぶスタディーツアー
・ジュニアライターが見たNPT再検討会議
・平和を呼ぶ歌
・ゴジラと核兵器
・フクシマ3高校の新聞
・21世紀の原爆漫画
・中国残留孤児たちは今
・フェアトレードって何?
・呉空襲を考えた
・知ろう、動こう 核兵器禁止条約

 この取材は、高2岡田実優、中川碧、岡田輝海、沖野加奈、松崎成穂、井丸貴拡、高1平田佳子、川岸言統、中3フィリックス・ウォルシュ、川岸言織、中2岩田諒馬、田所愛彩、平松帆乃香、中1林田愛由、桂一葉が担当しました。

(2017年11月16日朝刊掲載)

【編集後記】

 平和記念公園で、写真を撮ろうという意識を持って巡ったのは初めてでした。慰霊碑や原爆資料館だけでなくそこに咲く花や木、石畳まで私たちに平和について考えさせてもらえるものだと気づきました。参加者みんなが思い思いに異なる視点で写真を撮っているのが、とても面白かったです。(岡田実優)

 これまでの活動では感じなかった新鮮な感覚がありました。かなり広い年齢層と、いろんな国籍の人とディスカッションしたり自分の感性を共有したりできました。このように自分の感覚や考えが、国境を越えて伝えられる活動が増えて活発になっていけば、世界平和は決して夢ではないと思います。(川岸言統)

 今回は、ジュニアライターとして初めての活動でした。そのため、現地に着く前から緊張していました。しかし、色々な人と出会い、様々な考えに触れる中で、緊張もとけていき、楽しい時間となりました。また、普段あまり考える機会のない平和について、ゆっくり思うことができて、貴重な体験となりました。(井丸)

 ゼロプロジェクトに参加して感じたことは2つあります。1つは、戦争は音と同じように広まっていくよう思えたこと。戦争が、ちょっとした事件が発展して起きてしまうように、音楽も始めの音が鳴ると次々に音が続いていきます。もう1つは、私たちが普段聞いている音楽も平和になるための一歩だと感じたことです。世界平和も音楽も互いに聞き合う、話し合うことでつくれるものなのでは。自分たちそれぞれのやり方で平和を伝え、守っていくことができると思いました。(川岸言織)

 私は、被爆樹木について話し合うセッションに参加しました。もともと被爆樹木の本を記事で紹介するなど、興味はあったのですが、知らないことがたくさんあってとても勉強になりました。すべての被爆樹木の先っぽは、爆心地を向いていると知り、木はとても強いんだなと思いました。木が伝えてくれていることをきちんと受け止めて発信していきたいと思いました。(林田)

 私は絵を描いて、たくさんの人と交流しました。言葉が通じなくても絵で相手に自分の思いを表現することができると学びました。さまざまな人と交流することが平和への第一歩。日本だけに限らず、いろんな国の人々と平和について話し合っていきたいです。(桂)

 私は美術が苦手で、このプロジェクトに参加するのは正直不安だったのですが、ワークショップが始まる前に、アーティストのキャノン・ハーシーさんに「アートに間違いはないよ」と言われ、リラックスして始めることができました。最後には、アートにうまい、下手は関係ないと思えるように。たくさんの「モヤモヤ」を感じましたが、ふっきれることもできて、とても楽しかったです。(平松)

 袋町小での絵を描くセッションでは、原爆のきのこ雲を逆さにして、フラスコに見立てた絵の中に、自由に描きました。短い時間で、参加者それぞれの個性的な絵が出来上がったことに驚きました。妙慶院であった意見交換会では、「仲間」をテーマに話し合い。他の人の考えを聞き、友達との関係について改めて考える機会になりました。平和な世界を求める声を上げるのは、簡単で身近なことからできるのだと分かりました。(岩田)

 佐野元春さんが教えてくれた詩のワークショップに参加しました。今まであまり詩を書いたことがなく、参加するまですごく不安でした。参加者は4つのテーマで自分が書いた詩を発表したのですが、同じテーマで書いても全く違う詩になるということに、とても驚きました。あらためて詩の持つ力を感じました。(中川)

 具体的にどのような計画で、世界で平和が実現できるかということをフリーディスカッションで話しました。自由とは何なのか、核兵器の廃絶や、世界が平和にならない人間の心理とはどのようなものなのか、といったことを、しっかり考える機会になりました。そして、平和に興味を持った人が集まっていたので、より良い世界をつくっていける自信がわきました。(ウォルシュ)

 佐野元春さんが教えてくれたワークショップで、初めて本格的に詩を書きました。「自分の思ったことをありのままに書けばいい」とアドバイスをもらったことで、のびのびと書くことができました。詩をはじめ、言葉の持つ力の偉大さを知ることができ、とても貴重な体験ができたと思います。今回の体験を基に、詩以外の作品でも、思ったことを言葉に出来るよう心がけたいです。(田所)