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ピース・シーズ

Peace Seeds~ヒロシマの10代がまく種 第2号「留学生 × ヒロシマ」

 平和記念公園(広島市中区)にある原爆資料館には2013年度、これまでで最も多い約20万人の外国人が入館しました。広島県への外国人観光客数は13年、過去最高の延べ約84万3千人でした。

 確かに広島の街中で多くの外国人を見かけます。外国人、特にジュニアライターと同世代の留学生は、広島が受けた原爆被害や街の現状をどう見ているのでしょうか。昨年3、4月に広島に来て、地元の高校に通う留学生6人と、ヒロシマや平和について日本語で語り合いました。

 来日前、歴史の授業で原爆投下の事実しか学んでいない留学生が多いのが現実でした。しかし、広島の復興ぶりへの驚(おどろ)きを口にした人、原爆資料館に6回も行った人もいます。平和な世界を望む思いは一緒(いっしょ)、ということも分かりました。

 異文化交流・理解の大切さとともに、今後ヒロシマをいかに伝えていくかという課題も見えてきました。

150122PS2「留学生×ヒロシマ」

<ピース・シーズとは>
 平和や命の大切さをいろんな視点から捉え、広げていく「種」が「ピース・シーズ」です。世界中に笑顔の花をたくさん咲かせるため、小学6年から高校3年までの44人が、自らテーマを考え、取材し、執筆していきます。

留学生語る

世界の声 共通点と温度差と

カザフスタンから シャリアット・ボラトワさん(16)

ヒロシマとともに核実験の現実を後世に

 広島は自然が多く、すごく復興していました。広島の人は頑張ったんだと思います。世界の未来は私たちの手の中にある、と感じました。国に戻(もど)ったら、原爆で一般の人がたくさん犠牲(ぎせい)になった実態と、今の街の姿の両方を伝えたいです。

 カザフスタンでは、旧ソ連時代、40年もの間に何百回も核実験が行われました。地元の資料館には、放射線の影響(えいきょう)とされる、顔が二つある人や目が一つしかない人の標本があります。ヒロシマとともにこの現実も後世に伝えていかないといけません。

ロシアから イリナ・エカラコワさん(17)

原爆資料館を見てほしいと母国で伝えたい

 原爆で亡くなった人の大半は普通(ふつう)の人や子どもでした。ロシアに帰ったら、広島に行って平和記念公園や原爆資料館を見てほしい、と言いたいです。

 核兵器は事故を起こす可能性があるので保有のリスクはあります。しかし、ロシアだけが核保有をやめたら、他の国から攻撃(こうげき)されるかもしれず、怖(こわ)いです。全ての国が一度に保有をやめるしか手段はないと思います。立場などが違(ちが)う人の考え方を理解し、話し合うことが大切です。

米国から ジョナサン・バルリヤさん(17)

原爆がなければ戦争は続いた 抑止力になっている

 原爆は悲しいこと、と感じます。あまり考えたくありません。米国でも、原爆は悲しいこととしてしか教えられませんでした。僕(ぼく)は、原爆がなかったら、そのまま戦争は続いていたと思います。

 核兵器は悪くありません。抑止(よくし)力になっています。リスクを知っているから実際には誰(だれ)も使わないでしょう。厳重に管理されているため、テロリストなどに奪(うば)われることも考えにくいです。

タイから ナッタワディー・ジャンモーさん(16)

被爆体験に衝撃 忘れてはならない

 破壊(はかい)された街、放射性物質を含(ふく)んだ黒い雨…。広島に来て、原爆の被害状況(ひがいじょうきょう)や被爆者の体験談を聞いて、ショックを受けました。

 タイに帰ったら、ここで学んだ事実を友だちや家族に伝えたいです。過去と同じ過ちを繰(く)り返(かえ)さないために、ヒロシマのことを忘れてはなりません。そして、自分の考えにとらわれるのでなく、他人の考えもよく聞く必要があります。

ドイツから マイクバネッサ・チェアナイさん(16)

核兵器ゼロは困難 使っては駄目と言うしか…

 ドイツでは、16、17歳の時に、学校で(ユダヤ人大虐殺をした)ナチスについて学びます。実際にアウシュビッツ強制収容所に行ったり、当時の話を聞いたりします。しかしヒロシマの情報は乏(とぼ)しいのが実情。広島は原爆の影響で今も放射線量が高いと誤解している人もいます。きちんと事実を伝えたいです。

 ただ、核兵器は本当に要らない、とゼロにするのは難しいと思います。「使ってはいけない」と言い続けるしかありません。

フィンランドから シニ・ニソネンさん(18)

原爆もナチスも間違い 今からどうするか、が大切

 夏に3日間の平和キャンプに参加して被爆者の話を聞いたり、原爆資料館を見学したりしました。原爆も、ヒトラーが率いたナチスによる虐殺も間違(まちが)いです。間違いを繰(く)り返(かえ)さないために、今からどうするか、が大切です。私は友だちや家族を広島に連れてきて、原爆資料館を案内したいです。

 フィンランドには核兵器がありませんが、隣(となり)のロシアにはあるので怖(こわ)いです。心配ですが、自分にはどうすることもできません。

日本の校則「厳しい」 留学生、学校生活の印象

 留学生6人は、広島、廿日市(はつかいち)、東広島3市の高校に通っています。母国より校則が厳しいと感じている様子。「髪形(かみがた)や髪の色に制限があり、ピアスもダメ。驚(おどろ)いた」(ニソネンさん)「カラオケは保護者同伴(どうはん)でないと行けないし…」(ナッタワディーさん)などと残念そうです。

 授業の印象は「先生だけがずっと話している。生徒が眠(ねむ)たくなるのがよく分かる」(チェアナイさん)「日本はただ聞くだけ。カザフスタンでは新しいことを学んだ後、すぐにテストがある」(ボラトワさん)「長い。ロシアでは午後1、2時に学校が終わり、放課後はボランティアやクラブ活動をする」(エカラコワさん)と言います。

 クラブ活動はどうでしょう。軽音楽部に所属するバルリヤさんは「米国の学校より、みんなまじめにやっている」。ナッタワディーさんは「日本の文化を学べる」と剣道(けんどう)部で頑張る日々です。

 日本の芸能人が好きな人も。「きゃりーぱみゅぱみゅさんのように日本の女の子は奇抜(きばつ)で派手と思って日本に来た。でも普通(ふつう)だった」(エカラコワさん)といった声もありました。

ジュニアライター感想

 今回の取材を担当したジュニアライター7人が、留学生との交流を通して得た感想をつづりました。

「核兵器は悪くない」はショック。 廃絶、諦めずに

■ 核兵器はなくせない、とか世界平和の実現は難しいという意見が出ました。諦(あきら)めるのではなく、一人一人が、戦争はいけない、命を大切にしなければいけない、と思えば、状況(じょうきょう)も少しずつ変わるのではないでしょうか。(高1新本悠花)

■ 広島が原爆でどんな損害を受けたか外国ではあまり教えられていないのを聞いて残念でした。海外でヒロシマや平和を訴(うった)えていくためには、国外だけでなく国内の人にも、もっとヒロシマを知ってもらいたいです。8月6日には多くの人が広島に来ます。その時に、僕(ぼく)たちがジュニアライター活動で学んだことを発表する機会がほしいです。(高1中原維新)

■ いろんな国の人と意見交換(こうかん)するために、外国語を勉強します。(高1森本芽依)

■ 広島の放射線量が今も高い、といった誤解が起きないよう、他国の人ともっと交流するなどして事実を伝えていきたいです。(高1山下未来)

■ ロシアやカザフスタンは5月1日が「平和の日」だそうです。日本も「平和の日」をつくって、世界のいろんな国の歴史や課題を調べ、学校などで発表したらどうでしょうか。その国の戦争や核への考え方も学べて、平和について考えられるようになるはずです。(中3坪木茉里佳)

■ 核保有国の留学生から、核兵器について「悪くない」とか「知らない」「興味ない」という意見が出て、正直ショックでした。広島に来たら何か感じることがあるはずなのに…。事故のリスクを感じているなら、もっと関心を持ち、なくそうとする意識があってもいいんじゃないかと思いました。(中1鬼頭里歩)

■ 戦争をしてはいけない、という考えはみんな一緒(いっしょ)だと知りました。自分と自分の周りの人を大切にするとともに、僕もいつか海外に出て、国が違(ちが)っても思いは同じ、と伝えます。(中1川岸言統)

(2015年1月22日朝刊掲載)

【編集後記】

 僕が伝えたいことは、米国の留学生は自分の平和、ロシアの留学生は家族の平和、と平和についての考え方は違っていても、「戦争はだめ」という考え方は国に関係なく同じだということです。この思いは、ヒロシマが世界に伝えたい、戦争のない世界と同じです。この思いを世界の人々に広めたいです。今回は留学生が平和について話してくれたので、今度は僕たちがヒロシマから世界に出ていきます。「ヒロシマ平和使節」です。今回の座談会で学んだり考えたりしたことを、外国に行き「国によって平和についての考え方は違うけれど、戦争はしたくないという考え方は、国が違っても同じなんだよ」ということを直接伝えに行きます。ヒロシマ平和使節のリーダーは、もちろん僕です。(川岸)

 今回私は、初めて一対一で取材をしました。相手の目を見ながら、メモをしていたらノートがぐちゃぐちゃになってしまいました。結構、難しかったです。私はまだ写真の撮影をしたことがないので、機会があればチャレンジしたいです。

 また、交流を通して、「平和」の形も人それぞれだと感じました。なんと、私が個別取材を担当したロシアのエカラコワさんの名前「イリナ」は、ラテン語で「平和」という意味だそうです。生まれた国や育った国、話す言葉が違っても相手に伝えようと思う気持ちがあれば、相手に伝わるのだと思いました。母国を離れ、日本に留学している方々は、とてもカッコイイと思いました。

 「平和」を世界に伝えるためには、事実を見て感じてもらうことが、大切だと思います。世界には、もっともっといろいろな考えの人がいると思います。その人たちと話すためにも、しっかり英語を学習したいです。(鬼頭)

 グループディスカッションではドイツ、フィンランド、米国から来た留学生の人たちと話をしました。それぞれの国で平和への考えは異なっていました。新たな視点から平和を考えることができて充実していました。

 世界には多くの人がいて、お互いに衝突が絶えないのは当たり前で、世界平和は不可能だという意見が出ました。諦めるのではなく、一人一人が、戦争はいけない、命を大切にしなければいけない、と思えば、少しずつ変わるのではないでしょうか。

 広島の原爆については、被爆者の証言は大切で、戦争が起きた歴史を忘れてはいけないと話していました。原爆が落とされたことを忘れないために、被爆者の証言をインターネットなどで世界に発信し、伝えていく必要があります。(新本)

 ロシアやカザフスタンでは5月1日を平和の日とし、学校で世界中の国について調べてみんなの前で発表しているそうです。私たちは、世界の国を選んで、特色や課題、歴史などを調べる機会があまりありません。調べて発表する機会があれば、その国の紛争や戦争、核への考え方についても学べ、平和について考えられるようになるはずです。(坪木)

 今回の取材では外国の平和教育の現状を知ることができました。広島が原爆でどんな被害を受けたのか外国ではあまり教えられていないそうです。平和をもっと訴えていくためにまずは日本国内の人により知ってもらいたいです。そのためには8月6日というたくさんの人が広島を訪れる日に僕たちがジュニアライターで学んだことを発表する機会がほしいと思いました。また、僕もまだあまり知らない他国の平和について考えていけたらいいな、と思います。(中原)

 留学生に、「広島に来る前はまだ戦争の痕が残っていると思っていたけれど、来てみたらとてもきれいな街で、広島の人はよく頑張ったと思う」と言われて、うれしかったです。これからもたくさんの人に広島を訪れて平和について考えてほしいと思いました。また、いろいろな人と意見交換するためにも、もっと外国語を勉強していきたいです。(森本)

 広島の原爆のことを、世界史の授業でしか学ばない国が多かったのが、とても残念でした。今後どのようにヒロシマのことを伝えていけばいいかという質問に、同じグループだったカザフスタン、ロシア、タイいずれの国の留学生も「広島はこんなにも復興したしたのでもう頑張った」と評価してくれたのが驚きでした。しかし、他国では広島の放射線は今も高いなどという誤解が生じているので、もっと他国の人々と交流するなどして、まだまだ伝えていかなければないと感じました。それぞれの国によって平和に対する意識が違うので、内容の詰まったディスカッションをすることができ、貴重な体験になりました。(山下)