中国新聞社

2001/7/16

「核の傘不要」55%
「原爆の日」前に全国世論調査

 広島、長崎への原爆投下から五十六年。中国新聞社加盟の日本世論調査会は六月三十日、七月一日の両日に実施した全国世論調査で、二十一世紀最初の原爆の日を前に、原爆問題をめぐる意識を探った。

 「投下仕方ない」も増 平和運動への参加鈍る

 「日本の安全を守るため、米国の核兵器の力に頼る必要があると思うか」と、米国の核の傘の必要性を聞いたところ、「必要ない」が55%と、冷戦末期の一九八五年六月末の前回調査から9ポイント増加し、米ソ対立で核戦争の恐怖が現実のものだった十六年前と際立った変化を見せた。一方、冷戦終結で危機感が薄らいだことも一因とみられる核兵器廃絶・平和運動の沈滞ぶりも浮き彫りになった。

 新世紀を迎えても核拡散の危機が続いている今日、安全保障、平和を実現させるための具体的な方策、筋道を考える必要があることを示す結果といえそうだ。

 原爆投下には「米国の非人道的な行為で許せない」が42%で、前回の44%とほとんど変わらなかったが、「戦争を終わらせるためには仕方なかった」は35%と前回の29%から増加し、投下の是非を、時代状況の中で相対的にとらえる見方が広がっていることもうかがわせた。また、「もう忘れるべきだ」が13%(前回14%)「昔のことで関係ない」が2%(同3%)と、被爆体験継承に消極的な意見もあった。

 この二つの設問で「原爆投下は仕方がなかった」「核の傘は必要」を選んだ比率は、男性(41%、45%)、自由党支持層(41%、54%)で高く、女性(30%、31%)、共産党支持層(20%、22%)と対照的な結果になった。

 二十一世紀の核兵器廃絶、平和運動の在り方には「核兵器廃絶を訴え続ける」「被爆体験を風化させない」という従来の運動の継続を求める声が計76%を占め、「通常兵器の削減にも力を入れる」を含めると92%に上った。しかし、運動への関心度と参加経験を聞くと、「関心はある」が計80%あったが、「関心はあるが、参加したことはない」が前回の60%から70%に増加。関心度の高さが具体的行動に結び付いていないことが明らかになった。

 【注】小数点一位を四捨五入した。

 
■女性に反原爆の声 問題意識薄れる若者■

 被爆から半世紀あまり、風化が叫ばれながらも原爆投下への怒りや核兵器廃絶を望む声は今回の調査でもそれぞれ40%を超え、最多を占めた。特に目立つのは女性の率直な反原爆℃u向だ。一方で男性の現実追認と若者の問題意識の希薄化も強まり、二極化の構図がうかがえる。

 男女差が顕著だったのは「原爆投下への評価」。女性は前回調査(50%)に近い48%が「非人道的で許せない」とした。だが、男性は41%が「戦争を終わらせるために仕方なかった」を選び、前回は36%前後で拮抗(きっこう)していた「許せない」を7ポイント上回った。

 女性の平和志向の強さは、多くの草の根運動で中高年女性が中心を担っている現状にも反映されている。調査結果は、新世紀に入っても広島、長崎の被爆体験の継承で、女性が重要な役割を果たしていくことを示唆しているといえよう。

 職業別で、男性が相当部分を占めるとみられる管理職の56%が「米国の核の傘は必要か」の問いに「必要」とし、逆に主婦は56%が「不必要」と答えた。ほかの設問でも対照的な志向はほぼ同じだった。

 ただし女性も、若年層の問題意識の希薄化を免れていない。核兵器廃絶運動について「関心も参加したこともない」は二十、三十代で男女とも23―25%。四十代以上のほぼ全世代を明確に上回った。若い女性の核兵器廃絶に対する無関心が今後も続けば、日本の平和運動の担い手がますます少なくなっていく事態は避けられそうにない。



 
調査結果

 
 ◆問1 1945年8月、広島と長崎に原子爆弾が落とされました。21世紀を迎えたいま、あなたは、原爆の投下についてどうお考えですか。考えに近いものを1つだけお答えください。(数字は%)
アメリカの非人道的な行為で許せない 41.5
戦争を終わらせるためには仕方なかった 34.9
もう忘れるべきだ 12.7
昔のことで関係ない 2.1
原爆が落とされたことは知らない 0.3
分からない・無回答 8.5

 ◆問2 あなたは、日本の安全を守るためには、アメリカの核兵器の力に頼る必要があると思いますか、そうは思いませんか。次の中から1つだけお答えください。(数字は%)
必要だと思う 37.3
必要がないと思う 54.7
分からない・無回答 8.0

 ◆問3 あなたは、核兵器の廃絶、平和運動に関心をお持ちですか。これまでに署名、カンパ、集会などの行動に参加したことがありますか。次の中から1つだけお答え下さい。(数字は%)
関心があり、参加もした 9.9
関心はあるが、参加したことはない 70.4
関心はなく、参加したこともない 17.8
分からない・無回答 1.9

 ◆問4 あなたは、21世紀の核兵器の廃絶、平和運動はどうあるべきだと思いますか。あなたの考えに近いものを1つだけお答えください。(数字は%)
核兵器の廃絶を訴え続けるべきだと思う 45.5
被爆体験を風化させないようにすべきだと思う 30.1
通常兵器の削減にも力を入れるべきだと思う 15.9
核兵器の廃絶運動は効果がないと思う 5.1
分からない・無回答 3.4

 
▽調査の方法=調査は層化2段無作為抽出法により一億人余の有権者の縮図となるように全国二百五十地点から二十歳以上の男女三千人を調査対象者に選び、六月三十日、七月一日の両日、調査員がそれぞれ直接面接して答えてもらった。転居、旅行などで会えなかった人を除き千九百三十八人から回答を得た。回収率は64・6%で回答者の内訳は男性47・1%、女性52・9%だった。

 


Home