中国新聞
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第四部 提言編
 3 在日本朝鮮人被爆者連絡協議会会長
李 実根さん(73)

 援護で国交に道を 見えない実態ネック


2002/08/11

 ―六月末、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に住む被爆者を調査されました。

 実は、被爆者の調査・取材名目で訪朝を受け入れてもらえたのは今回が初めて。現地で会った十四人の被爆者のうち、半分は僕も初めて見る人で、収穫は多かった。

 現地の被爆者団体は、死者も含めて千九百五十三人の在朝被爆者数を公表した。「被爆者はいない」と繰り返した過去を考えると、よく掘り起こしたと思う。だが、生存者数や、広島と長崎の内訳など詳しい内容は明かしてくれなかった。これでは調査結果を生かしきれず、残念だ。

 ▼現地での治療望む

 ―被爆者のための病院建設を求める声もありました。

 日本政府の在外被爆者支援策に、現地の反発は強い。渡日治療は高齢化した被爆者の負担も大きいし、「北朝鮮から日本に行くのはおかしい」との思いがある。北朝鮮は被害者で、日本側がまず謝罪、補償すべきというわけだ。無料の医療制度を実施している自負もある。

 でも、被爆者を診ている放射線医学研究所の医師は「被爆者医療は日本に比べて遅れている」と断言した。「被爆者医療の研究機能を備えた病院がほしい」と現実を見据えた発言をした。現地で治療を望む被爆者も多い。実現に向けて日本政府は努力してほしい。

 ―在朝被爆者の支援に本格的に動き出してから十年以上たちました。

 長崎で被爆した、いわゆる日本人妻から手紙が届いた。窮状を訴える内容に驚いてね。戦後、僕らは北朝鮮に帰る被爆者を見送った。祖国の懐に抱かれていれば心配ないだろうと思っていた。

 一九八九年夏、世界青年学生祭典に招かれ、平壌で広島、長崎の被爆者十人と会った。向こうで被爆者問題が社会問題化していない実情を聞いたのが今の活動の始まり。実態調査のため用紙一万枚を持参したり、これまで延べ十人の在朝被爆者を招いて、思いを訴えてもらったりした。

 ▼北朝鮮の協力必要

 ―国交の谷間にいる被爆者を支援する動きは、まだ不透明です。政府の今後の対応への期待は。

 日本政府は、北朝鮮との国交問題は避けては通れない。ならば、その入り口として、在朝被爆者を救済することが合理的かつ現実的な道だ。被爆者援護を国交正常化交渉の流れに乗せ、人道問題としてとらえるべきだ。

 拉致(らち)疑惑など、さまざまな問題が両国間に横たわっている。それを乗り越えるために、北朝鮮の被爆者の実態をもっと日本に知らせ、支援のうねりを広げる必要がある。それには北朝鮮側の協力が不可欠だ。胸を開き、思いを全部吐き出してほしい。

 国交がない以上、市民団体の力だけでは北朝鮮の被爆者すべてを救えないんです。両国とも、どうか被爆者一人ひとりに視線を向けてほしい。

在外被爆者 願いは海を超えて



「日朝両国とも、被爆者一人ひとりに視線を向けてほしい」


 <リ・シルグン>下関市生まれ。75年8月、在日朝鮮人被爆者組織として全国初の「広島県朝鮮人被爆者協議会」を結成、会長となる。修道大の非常勤講師を務め、原爆投下に至る歴史的経緯などを中心に近現代史を教える。
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