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汚染地の家族再び
孫娘の将来 健康への不安 育児に影 ('06/4/15)

 ベラルーシ西部ブレスト市での医療支援の取材を終え、ホームステイ先のゴメリ市に戻る途中、首都ミンスクに立ち寄った。日本に帰る広島市の開業医、武市宣雄(61)とは、ここでお別れだ。「ほんとに元気な人じゃわ」。支援活動のパートナーで医療通訳の山田英雄(58)と笑いながら見送る。

 ▽半日かけ通う

 翌日、ゴメリ市で同居取材を受け入れてくれているナターシャ(51)をミンスクのアパートに訪ねた。胃がんで昨年二月に死亡した長女インナが残した孫娘のために買った部屋だ。間取りは1DK。広くはない。日本円で約四百五十万円のアパート代は、ゴメリ市に持っていたアパートを売り払って、工面した。

 週末は大学教員でインナの元夫が、平日はナターシャが、五歳の孫娘を預かって養育している。ナターシャはここミンスクまで毎週、約三百キロ離れたゴメリ市から半日かけて列車で通う。

 孫娘の名前は、同じナターシャ。命名には宗教上の由来が多く、家族と重なることも珍しくはない、という。キリスト教文化圏に限らず、イスラム圏でも預言者たちの名前を拝借する習慣があり、アリやムハンマドという名前の人が多い。

 「最初は、私たちが孫娘を引き取ることに、元夫も同意していたのよ」。ナターシャが、支援活動を通じて以前から知り合いの山田に愚痴をこぼす。昨年九月までは、孫娘をゴメリ市に引き取っていたが、五十七歳になる元夫が急に引き取りたいと言い出したのだ。なぜ今になって―。元夫の思いをいまだに探りかねている。

 元夫は一時、ナターシャらに自分の家に立ち入らないよう求めてきた。妻だったインナの死後、新しい女性ができたというのが理由らしい。そのため、孫娘を育てるアパートが必要になった。女性とは、いまはもう別れているという。

 ▽負担は大きい

 ナターシャの夫ステファン(54)と元夫とは、もともとそりが合わない。ナターシャも、あまりよくは思っていない。

 仲がこじれてしまった夫妻が、ミンスクの元夫の家で一緒の時間をすごすことはできそうもない。だが、毎週のようにゴメリで作業所「のぞみ21」を運営しながらミンスクに通うナターシャの負担はあまりに重い。元夫の同意さえ得られるならば、孫娘をゴメリ市に引き取るしか方策はないように思う。

 それでも、ナターシャは言う。「ゴメリで幼い子を育てるのは嫌なの。インナや長男のオレグも若くして亡くなった。母も二年前に死んでしまった。とにかく不安なの」。首を横に振る。

 「それより、最近、のどにしこりがあるんだけど、がんじゃないかしら」。普段は陽気なナターシャが心配そうに山田に尋ねる。事故後、次々と家族を亡くし、自身も七年前に脳腫瘍(しゅよう)の手術を受けている。いつも健康に不安を感じている。

 ナターシャと一緒に孫娘を保育園まで迎えに行き、帰りに近くの公園で遊んだ。「風邪気味だから。もう終わりよ」。孫娘は顔を真っ赤にして 「もっと遊びたい」と駄々をこねる。これから、この家族はどうなるのだろう。明るい見通しは描きづらい。

 しばらくミンスクにとどまるというナターシャを残して、再びゴメリ市のホームステイ先のアパートを目指す。車で南へ向かった。春の陽気で、道路の雪が解け始めていた。<敬称略>(滝川裕樹、写真も)

【写真説明】「もっと遊びたい」。やんちゃに駄々をこねる孫娘(左)を諭しながら家に向かうナターシャ


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