保有国への不信が噴出/「軍縮会議T」


「核軍縮と通常兵器の軍備管理」をテーマに開かれ
た国際会議。広島のの願いとは遠くかけ離れてい

 激しい核軍拡競争が展開された米ソ冷戦下、インドは世界の非同 盟諸国のリーダーとして、核実験の全面禁止を訴え続けた。しか し、そのインドは今、核保有五カ国の核独占に反対し「核開発」を 進める。隣国インドに対抗し、同じ道を歩むパキスタン。核抑止信 仰を支える両国民の思いと抑止の実態を点検する。

(田城 明編集委員、写真も)

 昨年十月末、パキスタンの首都イスラマバードのホテルで「核軍 縮と通常兵器の軍備管理」をテーマに、国際会議が開かれた。  主催はラワルピンディに本部のある非政府組織「国際環境・国内 開発・安全保障に関する研究財団(FRIENDS)」。パキスタ ン、インド、イラン、中国、ドイツ、ハンガリーの代表約三十人が 参加し、議論を交わした。

 印パの対立が続くジャムー・カシミール地方をインド側から取 材。さらにパキスタン側からも暫定国境(支配ライン)の最前線の 町チャコーティを訪れ、両国間の緊張ぶりを肌で感じた直後だけ に、どんな軍縮案が出されるのか内心期待を寄せ取材に臨んだ。

 各国の外交官ら七十人余が傍聴していた。最初の発言者はパキス タン人女性のシリーン・マザリーさん。安全保障問題専門家で、現 在は週刊誌の編集長を務める。

 「軍備管理が軍縮につながると思うのは間違いである。最初にそ のことを指摘しておきたい」。小柄なマザリーさんは、早口の高い 声で切り出した。

 「例えば…」と、言葉を継いだ。「包括的核実験禁止条約(CT BT)は、核軍縮を目指したものではない。核拡散防止条約(NP T)と同じように、核保有国と非核保有国を差別するための条約に すぎない」

 のっけから厳しいトーンである。この会議より一カ月余り前の九 月の国連総会でインドは、「核保有国の核独占は許さない」と、C TBTの国連決議に猛烈に反対した。パキスタンは決議に賛成した ものの、インドの反対を理由にCTBT署名を拒否した。

 「核爆発を伴わない臨界前核実験を認めるCTBTは、核保有国 にのみ引き続き核開発を認め、それ以外の国々の核保有を不可能に しようと狙ったものだ」。米国など核保有国に対するマザリーさん の批判は鋭い。

 一九七四年五月、インドは地下核実験に成功した。しかし、その 実験は六三年に米英ソ三カ国が締結した部分的核実験停止条約(P TBT)を破るものではなかった。というのも、PTBTは大気圏 や水中での核実験は禁止したものの、地下核実験は認めていたから である。

 フランスと中国はPTBT後も、「国家利益」のために、それぞ れ七四年と八〇年まで大気圏核実験を続けた。

 CTBTはこれまで認めていた地下核実験を禁止することで、と りわけインドやパキスタンなど「潜在核保有国」と呼ばれている国 々の「核クラブ」入りを締め出そうというのである。

 CTBTに対するマザリーさんの認識は、私を含め世界の多くの 人々が共有するものだろう。だが、そこから導き出される考えは随 分と違ったものになる。

 彼女は言った。「CTBTを認め、核兵器を持たないということ は、発展途上国同士が通常兵器をどんどん買って戦争を続け、互い に殺し合いなさい、と言っているのと同じこと。パキスタンのよう に、隣国インドから常に脅威を受けている国にとって、核兵器開発 のオプションを自ら放棄するなどナンセンスというほかない」

 核保有国への抜き難い不信、核兵器が戦争を抑止するとの確信 …。彼女の発言には、この二点が貫かれていた。

 果たしてこの会議が軍縮会議と呼べるのかどうか初めから雲行き が怪しかった。


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