【私たちの国の長く苦い思い出】

　明治維新は日本の近代国家への船出でした。鎖国を解き国際社会と向き合った 日本が選択したのは、天皇を中心にした中央集権の国づくりです。幕藩体制に代 わる府県制度をしき、西洋の強国に追いつこうと欧米の産業技術を積極的に取り 入れ、軍隊を整えました。

　この国家政策は日本を欧米の近代国家に近づけるのに役立ちました。しかし、 欧米に対抗して国力を強める手段としてアジア大陸に経済的な利権を求めるよう になりました。近代化の遅れた国々の政治に干渉し、欧米の列強と支配権を争っ た結果、軍事的に衝突し、アジアを戦場にした戦争に突き進んでいったのです。

　日清戦争はその最初の大きな戦争でした。このとき国は、広島市に戦争を指揮 する大本営を置き、鉄道や港を整え、臨時の軍事拠点としました。その後の日露 戦争、第一次世界大戦などを通じ、市中心部に師団が置かれるなど広島は軍都の 機能を強め、多くの将兵がアジアの戦場へ向けて出ていきました。

軍国主義とアジア侵略

　この歩みの中で、軍部はしだいに日本の政治への発言力を増し、昭和期に入る と内閣の意思決定に主導権を持つようになります。アジア諸国への日本の植民地 支配は露骨になり、中国東北部での「満州国」建国など、国際的な批判を受ける 侵略行為を行いました。

　日本は国際連盟を脱退、ドイツ、イタリアのファシズム政権と同盟を結びまし た。1937年に日中戦争、1941年に太平洋戦争を始め、次々にアジア・太平洋各地 に侵攻しました。一方、ヨーロッパでも1939年にドイツがが戦争を始め、第二次 世界大戦になりました。

　日本はこの戦争を「アジアが団結して欧米の支配を脱し、共に繁栄を目指す戦 い」と内外に説明しました。しかしアジアの広い地域で残虐な戦争をし、朝鮮半 島の人々を徴用・連行するなど、多くの民衆に強制労働をさせました。

　第二次世界大戦はイタリアが1943年に敗れ、1945年にドイツ、そして日本が降 伏して終結しました。世界の49カ国が戦闘に参加、合わせて動員兵力 1億1000万 人、戦死者2700万人、民間人死者2500万人という、犠牲の大きい、反省に満ちた 結末になりました。
戦時下の広島

　1945年（昭和20年）の夏、日本は敗戦が間近でした。全国の都市が米軍の空襲 で焼かれ、広島に近い呉市も 7月に空襲を受けました。

　広島市では、空襲で燃え広がるのを防ごうと家屋を壊す建物疎開が行われ、小 学生は家庭を離れて農村へ疎開させられました。旧制中学や女学校の生徒は軍需 工場に動員され、建物疎開にも出ていました。「銃後の守り」と言われ、町内で は防火演習や竹やり訓練があり、食料も乏しい中で、国民は不自由な暮らしを強 いられました。「日本は負ける」と思っても、口には出せません。言論は自由で なく、国や戦争を悪く言うと「非国民」と呼ばれた時代でした。

　広島には市中心部に陸軍の第五師団があり、宇品港を中心に陸軍の船舶部隊が ありました。戦争の終わりには、米軍が上陸した場合の「本土決戦」に備え、西 日本の軍組織を統括する第二総軍司令部も置かれました。

　しかし広島だけはなぜか大きな空襲がありません。人々はまだこの時、広島が 恐ろしい新型兵器の最初の投下都市として、米国にリストアップされていること を知りませんでした。

１８９４〜１９４５年の日本と「広島」