広島被爆54周年祈念式 被爆者の足跡評価

'99/8/6

 木々の緑を洗った雨が上がり、ヒロシマは六日朝、被爆五十四周 年を迎えた。広島市中区の平和記念公園での原爆死没者慰霊式・平 和祈念式(平和記念式典)には、被爆者や遺族など五万人(広島市 発表)が参列した。秋葉忠利市長は平和宣言で、被爆者の足跡を高 く評価し、「核兵器を廃絶する強い意志」を若い世代が継承するよ う呼び掛けた。

 午前八時、秋葉市長が遺族代表二人と原爆死没者名簿を原爆慰霊 碑に奉納した。この一年間に亡くなったり、死亡が確認された被爆 者は五千七十一人。名簿登載者の総数は二十一万二千百十六人。死 没者名簿冊数は一年間に二冊増えて七十三冊になった。広島市内に 住む被爆者の平均年齢は六八・七歳。老いる被爆者は、核兵器廃絶 への道のりが依然険しいことに、いらだちを隠せない。

 平野博昭市議会議長が式辞を述べた後、遺族代表、被爆者代表、 昨年に続いて参列した小渕恵三首相、渡部恒三衆院副議長、宮下創 平厚相、藤田雄山広島県知事、桧山俊宏県議会議長らが慰霊碑に献 花した。

 原爆が投下された午前八時十五分。遺族代表と子ども代表が「平 和の鐘」を打ち鳴らし、参列者全員が黙とうをささげた。続いて秋 葉市長が平和宣言を読み上げた。

 「多くの被爆者が世界のために残した足跡を顧みるとき、私たち は感謝の気持ちを表さずにはいられません」。宣言初の「です、ま す」調で語りかける。

 被爆者の足跡として、「原爆がもたらした絶望を乗り越えて人間 であり続けた事実」と「核兵器の三度目の使用を阻止したこと」を 挙げた。さらに、復讐(しゅう)や敵対でなく人類全体の公正と信義に依拠す る道を選び、「日本国憲法に凝縮された新しい世界の考え方を提示 した」と続けた。

 若い世代に対しては、過ちを繰り返さぬと誓った被爆者の意志の 力で、「皆さんの未来への可能性が残された」と強調。「核兵器は 絶対悪で、廃絶に向け強い意志を持ってもらいたい」と呼び掛け た。政府には、「世界各国政府を説得し、世界的な核兵器廃絶への 意志の形成を」と求めた。

 この後、子ども代表の小学六年生二人が「広島の人々の心を学 び、語り継ぎ、一人一人が輝き豊かに生きる社会をつくるよう、世 界の多くの友達とともに努力する」と「平和への誓い」を読んだ。

 続いて小渕首相は、政府が提唱した「核不拡散・核軍縮に関する 東京フォーラム」の報告書を踏まえ、「核のない世界を実現するた め、積極的な役割を果たすことが被爆国の使命」と表明。「被爆者 への援護施策の推進に向け、誠心誠意努める」と述べた。

 会場の一角には、老いる被爆者、遺族のため、日よけのためのテ ント席を初めて設けた。

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 小渕首相は、記者会見などを終えた後の正午過ぎ、予定を急きょ変更し、平和記念公園内の韓国人原爆犠牲者慰霊碑に参拝した。

【写真説明】

天に届け平和の願い
核兵器廃絶の願いを込めて開かれた被爆54周年の平和記念式典。子ども代表の「平和への誓い」の後、約1500羽のハトが一斉に放たれた(6日午前8時30分、広島市中区の平和記念公園)  右下は平和宣言を読み上げる秋葉市長


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