公民館書庫から被爆体験記掘り起こし/広島市

'99/8/8

 埋もれている被爆体験記を掘り起こそうと、広島市は市内にある 公民館全館の書庫などの調査を進めている。収集した体験記や手記 は、中区の平和記念公園内に二〇〇二年開館予定の国立原爆死没者 追悼平和祈念館で公開する。被爆後半世紀以上たち、体験継承が切 実な課題になる中で、被爆者の記憶を次世代に伝える営みでもあ る。

 調査は、広島大原爆放射能医学研究所の宇吹暁助教授がまとめた 原爆手記の総目録に沿って、その実物を収集するのが目的。七月上 旬に始め、既に約四十点を集めた。製本された手記集のほか、わら ばん紙に刷った手づくりの冊子もある。宇吹助教授の目録に載って いない体験記も数点見つかった。

 公民館を調査対象にしたのは、地元の被爆体験記集の編さんを手 掛けた館があるうえ、地域のお年寄りがグループ活動で書いた手記 が残っている可能性もあるため。

 祈念館の開設準備をしている広島市原爆被害対策部の分室の職員 六人が交代で二班に分かれ、一日三〜四館を巡っている。

既に市内 の公民館、コミュニティーセンター計六十四館のうち、七区の施設 を回り終え、残る安佐南区も近く調査する。

 公民館の後は、市内の小中学校や高校に残る同窓会誌や創立記念 誌などを調べ、被爆体験記が掲載されていないか調べる。

 被爆体験記の収集は、国の委託を受けた祈念館開設準備事業の一 つとして、広島市が九七年十月から全国規模で取り組んでいる。三 千五百点を目標に、各地の被爆者団体や都道府県などを通じてチラ シやポスターで呼び掛け、これまでに約千七百点が集まった。

 体験記は祈念館が保存。訪れた人が手に取って読めるようにす る。併せて、執筆者や登場している人などの人物情報、被爆場所に 関する情報、救援救護活動や平和への思いなど内容に関する情報に 整理し、データベースにする。

 調査に携わる大瀬戸正司さん(36)は「根気のいる作業だが、意外 なものを見つける楽しみがある」と意欲的。広島市の松浦洋二社会 局長も「きちんと保存することは、亡くなった被爆者の追悼にな る」と話す。宇吹助教授は「集めた資料をしっかり読み込んで、遺 品探しなどに役立ててほしい」と期待している。

【写真説明】広島市が市内の公民館を調査して収集した被爆体験記集=写真上=
広島市佐伯区の五日市公民館書庫で被爆体験記を探す市原爆被害対策部の職員たち


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