中国新聞

タイトル 第2部 自治体の課題 
 
 6.渉外知事会

国への緊急要望相次ぐ
 どう響く分権の流れ

  一月二十日、呉市内のホテル。米軍基地を抱える広島、山口など 十四都道県でつくる「渉外関係主要都道県知事連絡協議会」(渉外 知事会)の事務レベルの勉強会が開かれた。

 77項目もの質問書

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渉外知事会の事務局がある神奈川県庁の基地対策課。この1年、周辺事態法などの対応に追われた(横浜市)

 「米軍機の低空飛行は続いている」「米艦船の入港では県条例は 依然、尊重されていない」。基地担当の課長たちが懸案をそれぞれ 報告し、七月に「基地対策に関する要望書」として国に申し入れる 陳情項目の具体的な検討に入った。

 昨年は周辺事態法について七十七項目もの質問を政府に突き付 け、回答を得た。その記録は、全国の自治体が、政府の解説書案を 補足する「第二の解説書」として参考にしているほどだ。それで も、勉強会では「まだ分からない点が多い。さらに国に説明を求め る」との認識で一致した。

 岡崎洋神奈川県知事を会長とする渉外知事会は基地周辺の環境整 備の新法制定を国に求めるため、一九六二年に設立された。山口県 は設立時から参加、広島県は本土に復帰した沖縄県とともに七二年 から加わった。

 「陳情の効果大きい」

 現在では国の予算編成に合わせた陳情に加え、米軍に関するあら ゆる問題を扱う。米軍輸送船の岩国港使用など懸案を抱える山口県 の吉富克史総務部理事は言う。「単独の訴えは国もなかなか聞いて くれない。渉外知事会を通じた陳情の効果は大きい」

 「この一年は大忙しでした」。横浜市の神奈川県庁基地対策課に ある渉外知事会事務局。事務局長を兼ねる河野誠課長は、九九年度 の活動記録をめくった。周辺事態法の成立・施行だけではない。米 軍機の事故、東海村臨界事故で懸念された原子力艦船の安全確保… と国に緊急要望する場面が続いた。

 その一つとして昨年十月、外務省に申し入れた「模擬対地訓練の 中止を米軍に申し入れてほしい」との緊急要望は山口県が提案し た。昨年一月、高知沖と岩手県内で米軍機が相次ぎ墜落。公表され た事故報告書で学校などを目標地点にしたとみられる対地訓練が明 るみに出たのだ。

 これを受け、岩国基地を抱える山口県が三沢基地のある青森県と 連絡を取り合い、「共通の課題として国に要望しよう」と神奈川県 に伝えてきた、という。

 実際には陳情にもかかわらず、低空飛行をはじめ米軍の実態は変 わらない。外務省は「要望は定例の日米合同委員会の場で伝えてい る」と説明するが、河野課長は不満を隠さない。「毎年、国あてに 出す膨大な要望をすべて翻訳し、伝えているとは思えない。政府が どう対応し、米軍がどう答えたか一つ一つ求める陳情形式も検討し たい」

 足並み乱れる例も

 十四都道県がなかなか足並みをそろえられない悩みもある。例え ば岩国など本土で続けられている夜間着艦訓練(NLP)。「岩国 の立場では専用施設のある硫黄島でやってくれ、という言い方でい いが、島は渉外知事会に加わる東京都。どうしてもはっきりした表 現ができない」。山口県の吉富理事は明かす。

 今月一日、施行された地方分権一括法は国と地方の関係を「上下 ・主従」から「対等・協力」に変える、とする。しかし、安保・防 衛については国が「専管事項」としたままだ。その厚い壁に、どう 向かっていくのか―。渉外知事会の模索は続く。

  (第2部おわり)

 この連載は岩崎誠が担当しました。


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