特   集
2000.3.29
 
周辺事態法 どう対応 「協力」身近な課題に
 地方自治体が、国の安全保障とどう向き合っていくのか、あらためて問われている。日米防衛協力のための新指針(ガイドライン)関連法として昨年八月に施行された「周辺事態法」が、自治体への協力要請を明文化したのがきっかけだ。中国地方では、米軍が自治体管理の民間港や空港を使用するケースが相次ぐ一方、米軍機の訓練による、住民生活への影響も絶えない。安保新時代のもと、自治体を取り巻く現状を報告する。(岩崎 誠)

中国地方 データマップ     基地のある市長に聞く     周辺事態法9条

地位協定とどちらを優先  詳細見えず自治体困惑    協力拒否できるの?  

米軍輸送船の入港が続く山口県営岩国港。日米地位協定と県条例の兼ね合いを象徴する港として、全国的な注目を集めている
 新ガイドライン関連法の中核をなす周辺事態法。だが、地方自治体が行う協力の内容をめぐり、いまだ自治体側の疑問は消えない。個別ケースに即した、詳細な判断材料を求める自治体側に対し、「現時点で、具体的な内容は明示しにくい」とする政府。意識の隔たりはなお大きい。

 「『解説書』はまだ出ませんか」。総理府にある内閣安全保障・危機管理室(安危室)には自治体からの問い合わせが絶えない。

 昨年七月六日、政府が公表した周辺事態法九条についての解説書案。ガイドライン関連法の国会審議の政府答弁などをもとに、港湾・空港の使用など、九条運用の具体的な内容についての現時点での政府見解をまとめたものだ。

 当初、政府は「法律が施行される八月末までには『案』をはずし、正式に示したい」との方針だった。だが、延び延びになって今に至る。

本文は「枠組み」

 もともと周辺事態法の本文は「枠組み」にすぎない。具体的内容は法律としては明記せず、「政府見解」によって肉付けするため、どうしてもあいまいさが伴う。案の定、全国知事会などに対する説明会では、疑問が続出した。

 「政府が言う『一般的協力義務』の意味が分かりにくい」「政府による協力要請のプロセスは具体的にどなるのか」・・・。

 「自治体から寄せられた質問を再度、整理する作業中」。安危室の担当者は説明する。解説書発行のめどはまだ立っていない。

 島根県の担当職員は、解説書案の内容を検討するため、八月に実務担当者で県庁内の連絡会議を発足させた。しかし、国の動きがその後ないため、会議もそれっきり。「解説書が出れば会議をやらねばと思っているんですが・・・。緊迫感は薄れてしまった」

回答まで3カ月

 自治体の協力内容にかかわる根幹部分も十分に整理されているとは言えない。

 安危室は昨年十月、広島、山口県など、基地を抱える十四の都道県でつくる「渉外知事会」が提示していた七十七項目の質問状にまとめて回答した。それぞれの担当者が感じた率直な疑問を持ち寄ったもので、回答まで三カ月かかった。

 中でも、関係者の強い関心を集めたのが周辺事態法における港湾使用の手続きについての回答だった。

 解説書案では、周辺事態法に基づく米軍の港湾使用については「自治体の長(港湾管理者)の許可を得る必要がある」と明記する。しかし、実際は、米軍は民間港入港にあたり、知事などの許可の根拠となる条例を無視し、国内法を超越できる「日米地位協定」をフルに活用している。

 特に山口県営岩国港では、米軍輸送船が最初は県条例に従いながら、途中から地位協定を適用して条例を守らなくなっている。「米艦船も条例尊重を」。その訴えは、山口県だけでなく、渉外知事会としても国に突き付けていた。

 「周辺事態の際は、地位協定と条例、どちらが適用されるのか」

 自治体側の当然の疑問に、政府の見解は抽象的だった。「米軍艦船の使用にあたっても、港湾管理者は、適正な運営という観点から法令に基づく権限を行使する」。山口県の担当者は、苦笑した。「これを読んで何のことか分かりますか。もっと明確な判断がほしい」

なお疑問は山積

 渉外知事会を通じ、広島県が提出していた質問も肩透かしを食らった。「港湾・空港などの使用を拒否できる正当な理由を、具体的に例示してほしい」。これに対し、政府は「具体的な事例に即し、個別の法令に照らして判断される。網羅的に示すのは困難だ」とするにとどまった。

 議会の反対決議を根拠に、協力を拒否したら、実際どうなるのか。空港建設の際に地元住民などと結ばれている「軍事利用はしない」との整合性は・・・。自治体の疑問はなお、山積している。




周辺事態法9条をめぐる渉外知事会の主な疑問と政府回答
「一般的協力義務」という表現は協力を強制する印象だ。修正を」 法令に基づき権限を適切に行使することが期待される、という意味だ
港湾使用にあたり米軍艦船も条例の許可を得なければならないのか 港湾管理者は、適正な管理運営の観点から法令に基づく権限を行使する
避難民の受け入れは具体的にどのような形での協力要請となるのか 具体的な事態において検討されるべき問題で、一般論で示せない
市町村や民間企業への都道府県の調整の内容はいつ明らかになるのか 事態ごとに異なるが、具体例について今後、検討したい
協力に伴う自治体の損失はどのように認定されるのか 具体的な手続きは個々のケースで対応する
港湾・空港使用を拒否できる正当な理由を具体例で記載してほしい あらかじめ網羅的に示すのは困難
安全確保のニュアルをあらかじめ公表すべきではないか 現時点で、公表するのは困難
議会での議決が拒否理由になるか、考え方を解説書に盛り込んでほしい 「権限と適切に行使することが期待される立場に置かれる」との説明でカバーされている

【周辺事態法9条】
 

 1項 関係行政機関の長は、法令及び基本計画に従い、地方公共団体の長に対し、その有する権限の行使について必要な協力を求めることができる。

 ((1)港湾使用(2)空港使用(3)燃料貯蔵所の新設などに関する消防法、建築基準法上の許認可(4)救急搬送)

 2項 前項に定めるもののほか、関係行政機関の長は、法令及び基本計画に従い、国以外の者に対し、必要な協力を依頼することができる。

 ((1)人員・物資の輸送(2)給水(3)公立医療機関への患者受け入れ(4)物品、土地、建物の一時貸与、体育館・公民館等の目的外使用)

 【注】カッコ内は、解説書案で示されている地方自治体の具体的な協力内容




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