「非核の世紀」―NPT会議 「核廃絶の約束」は成果

'00/5/21
社説

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、イラク問題をめぐる最 終調整が難航しているが、「核保有国の核廃絶への疑いのない約 束」などの合意に前進が見られた。核保有国側が主張した「核廃絶 は究極的目標」との文言が削除され、廃絶を現実的な約束にした意 味は大きい。今後の核廃絶の道筋づくりへ、一つの踏み切りができ た、と考えたい。核大国も日本政府も今後は「究極的目標」という あいまいさに逃げ込めないことをしっかり認識すべきである。

 合意した主な内容は「包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期 発効とそれまでの核実験禁止」「兵器用核分裂物質生産禁止(カッ トオフ)条約交渉の五年以内の妥結」「核保有国による自発的核削 減のためのさらなる努力」などである。

 四週間にわたった会議は、米国、ロシア、中国など核保有五カ国 と、メキシコやスウェーデンなど核廃絶を強く求める「新アジェン ダ連合」(NAC)七カ国の対立が目立った。その間を日本が調整 に回るといった構図である。一方、米国が進める本土ミサイル防衛 (NMD)構想に対し、中国やロシアの警戒と反発が強く、核大国 間に思惑の違いや対立があったことが交渉を難しくした。

 そうした核保有国のエゴを抑え、譲歩させたのは、NACの粘り 強い交渉だろう。核保有国にも核の水平拡散の歯止めであるNPT 体制そのものの崩壊は避けたい、との思惑が強く働いたはずであ る。さらに、合意に反対することで国際世論を敵に回したくないと の判断もあって、瀬戸際での譲歩になったといえよう。

 もう一つ、忘れてならないのが非政府組織(NGO)の活発な動 きである。世界の約二百のNGOが計四百人ほどを会場となった国 連本部に送り込み、密室で進む交渉の内容を速報してきた。会期半 ばには、NACと会合を持ち、核廃絶への「疑いのない約束」を最 終文書に盛り込むように強く働きかけた。自治体首長による組織 「世界平和連帯都市市長会議」を代表して伊藤一長・長崎市長も本 会議で核廃絶の必要性を訴えた。

 「マンハッタン(原爆製造)計画」への反省から生まれた団体・ 米国科学者連盟(FAS)が、米商業衛星の写真を分析し、イン ド、パキスタン両国が核ミサイル軍備を増強しつつあることや、新 たな核実験の可能性もあることを国連本部で会議期間中に発表し た。これも会議にインパクトを与えるNGOの活動となった。

 ただ、国防上の利益などから具体的な約束を避けようとする保有 国のエゴも強く、玉虫色に終わった文言も多い。「二〇〇五年まで に核軍縮交渉を加速」といった具体的な表現も交渉中に消えた。

 米国のNMD構想や、日本も米国との研究に乗り出した戦域ミサ イル防衛(TMD)構想は、今後も中国やロシアの核軍拡の火だね になる可能性が高い。アジアの平和と安定に何が必要か、いま一度 考えたい。

 日本からのNGOの参加が少なかった、と広島平和研究所の研究 員が報告している。これからの核廃絶にNGOの存在と働きは不可 欠である。専門知識と情報収集・分析能力のあるNGOの育成、支 援も図りたい。


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