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本誌連載「劣化ウラン弾の」実態」英訳出版

 ●ヒロシマ記者の目 世界へ

 中国新聞に昨年四月から七月にかけて連載された「知られざるヒ バクシャ―劣化ウラン弾の実態」が、英訳出版された。国際報道で 活躍したジャーナリストに贈られるボーン・上田記念国際記者賞受 賞者の田城明編集委員が米、英、イラク、ユーゴスラビア、日本 (沖縄)で取材執筆した。類書が少ないだけに国際的な注目を集め る出版であることは間違いない。

 本書は、アメリカの湾岸戦争退役軍人の深刻な健康被害を扱った 第一部「超大国の陰」をはじめ、イギリスの湾岸戦争退役兵、戦場 となったイラク南部の住民の健康や環境への影響など全六シリーズ (四十七回・特集七回)からなっている。

 いずれも事実に即したルポであること、写真を多用しているこ と、日米共同作業の翻訳であることが、本書の価値を一層高めてい る。

 劣化ウランは、核兵器や原発用濃縮ウランをつくる際に出る廃棄 物で、半減期は四十五億年。鉛より比重の重い重金属で、極めて頑 丈な戦車をも貫通することから廃物利用兵器として登場した。「通 常兵器」扱いだが、着弾後は大気や土壌を放射能で汚染し、微粒子 を体内に吸入するとガン発症率は極めて高い。

 湾岸戦争に参加した米、英、カナダ、フランス、旧チェコスロバ キアなどの退役軍人や戦場となったイラク、クウェートの住民、そ れに米軍の空爆を受けたボスニアやコソボの住民、平和部隊として そこに駐留した兵士らの間にそれぞれ「湾岸戦争症候群」「バルカ ン症候群」と呼ばれる深刻な症状が起きている。数十万人の犠牲者 が出ているのに、米国でも他の国々でも、政府は病因が劣化ウラン 弾であることを認めようとしない。

 この新しい放射能兵器は間違いなく一種の核兵器である。「社会 的責任を果たす医師の会」(PSR)の創設者の一人でオーストラ リアの小児科医ヘレン・カルディコット博士も、劣化ウラン弾を使 った戦争は核戦争だと言い切る。

 なるほど、劣化ウラン弾は核分裂(原爆)や核融合(水爆)は起 こさない。しかし、この兵器が持っている致死性、催奇形性、ガン 発症性などの特質は、原爆や水爆と変わらない。

 カルディコット博士風に言うならば、劣化ウラン弾が禁止されな い限り、これからも「核戦争」は起こる。この「核戦争」が、核ミ サイル使用の閾値(しきいち)を低くし、本物の核戦争に対する政 治家の恐怖心を麻痺(まひ)させる原因になる恐れもある。  こうした状況を考えるとき、劣化ウラン弾の正体を余すところな く精査した連載記事が英訳され、広く世界で読まれるようになった ことの意義は大きい。

 連載は、東海村臨界事故を検証した本紙の「被曝(ばく)と人 間」と併せ、昨年度の日本ジャーナリスト会議(JCJ)大賞を受 賞するなど既に国内で高い評価を得ている。しかし、一連の記事に どれほど人類に対する普遍的なメッセージが内包されていても、今 や世界の共通語である英語に翻訳されない限り、そのメッセージは なかなか海の向こうに届かない。

 インターネット時代を迎え、その傾向は一層顕著である。中国新 聞ホームページに掲載された「知られざるヒバクシャ」英語版への ヒット数が、昨年十一月から先月末までに十一万二千七百九十二件 に達したという。このことだけでも英訳の意義が見いだせる。

 「ヒロシマ記者の目」でとらえた本書が、電子メディアと連動し ながら広く世界の人々に読まれるであろうことを私は確信してい る。そしてそのことが、非人道兵器である劣化ウラン弾の製造・使 用禁止、さらには核兵器廃絶へとつながっていくとすれば、自らも 「被爆者」である中国新聞社のマスメディアとしての世界的使命を 果たすことになるだろう。

■非人道性訴え大きな意義



岡本三夫

広島修道大教授・平和学

 33年栃木県生まれ。ドイ ツ・ハイデルベルク大大学院博士課程修了。ハーバード大客員研究 員などを経て90年から現職。著書に「平和学―その軌跡と展開」な ど。  


英訳出版された連載「知られざるヒバクシャ―劣化ウラン 弾に実態

  

本書のタイトルは"Discounted Casualties: The Human Cost of Depleted Uranium"
中国新聞社から発売。