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劣化ウラン弾関連施設  試射場汚染 隠された真実


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 放射能兵器である劣化ウラン弾の関連施設は、米国のほぼ全土に散らばっている。研究開発から製造、試射、貯蔵、廃棄に至る施設は、放射能汚染などで既に閉鎖されたものを含めると五十以上にのぼる。同じように全米に広がる核兵器関連施設に比べ規模、数では遠く及ばない。しかし、試射場や廃棄場には過疎地が選ばれ、環境汚染や周辺住民の健康が脅かされるなどの共通点も多い。米陸軍環境政策研究所(AEPI)が一九九五年にまとめた劣化ウラン弾の関連施設を地図で紹介しながら、試射場を中心に汚染問題などの現状をリポートする。 (田城 明、写真も)


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前方に広がるニューメキシコ州立工科大学付属のエネルギー物質研究試験センター。劣化ウラン弾の実射試験は、頂上に「M」の文字が見える山一帯で行われてきた。近くの町までは約3キロしか離れていない(ニューメキシコ州サッコロ市)
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古くなった大量の兵器を破壊しているシエラ陸軍武器貯蔵・廃棄所の風下にあるピラミッド湖。パイユート先住民らの大切な漁場だが、劣化ウランや化学物質による汚染が懸念されている(ネバダ州ピラミッド湖パイユート先住民居留地)
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 人体への影響は? 周辺住民に消えぬ不安

 劣化ウラン弾は、頑丈な金属でできた戦車の破壊が主な目的である。戦車から発射する場合も、比較的広い試射場を必要とする。特にスピードを伴う飛行機からの空爆演習には、砂漠地帯などに設けた広大な基地が使われる。

  変わる行政意識

 ネバダ州のネバダ核実験場を取り巻くようにあるネリス空軍基地。この基地は、空軍が現在も使用している唯一の劣化ウラン弾の試射場である。広さは広島県の約一・五倍に当たる百二十五万ヘクタール。このうち原子力規制委員会(NRC)から許可を得ている劣化ウラン弾使用区域は、ラスベガス寄りに当たる基地東南端の一部である。ここで年間七千九百個の三〇ミリ砲弾が、さまざまな目的でテストされる。

 ところが、許可地域はそのまますっぽりと国指定の砂漠野生動物保護区に入っている。一九七〇年代初期から劣化ウラン弾の試射を始め、八〇年代半ばまでは放射能や重金属汚染について、それほど問題にならなかった。
 しかし、米議会の決定で、空軍は今では汚染地の見返りとして約四万四千五百ヘクタール分の野生動物保護区の土地を、同州内の他の場所に見つけなければならなくなった。グレイス・ポトーティさん

 ネバダ州リノ市に拠点をおく非政府組織「軍の説明責任を求める田舎同盟」事務局長のグレイス・ポトーティさん(45)=写真=は、州住民や行政の意識の変化を次のように説明する。

 「ネバダ州は五〇年代初めから、ネバダ核実験場での大気圏核実験に協力するなど、八〇年代半ばまでは常に軍の拡大を歓迎してきた。でも、それ以後は違ってきた。確かに軍の存在による経済的メリットは少なくない。が、それ以上に劣化ウラン弾などさまざまな砲弾使用による生態系や住民の健康へのデメリットの方が大きいことに、住民も州政府も気づき始めたからだ」

  150万個の不発弾

 田舎同盟は、インターネットを通じて軍事基地などを抱える全米各地の市民グループと情報を交換している。ポトーティさんによれば、劣化ウラン弾の試射場は一、二カ所を除きいずれも人口密度の低い過疎地にあり、放射能汚染問題を抱えているという。

 例えば、インディアナ州南東部にある陸軍のジェファーソン立証グラウンド(JPG)。約二万二千三百ヘクタールの基地の一部を使って、八〇年代半ばから九四年まで劣化ウラン弾の威力や正確性を「立証」するための試射が繰り返された。その結果、約七十トンの劣化ウランをはじめ、砲弾の破片、貯蔵用ビルなどが残された。

 このほか四一年から各種砲弾の試射場として使われたことで、基地内には約百五十万個の不発弾が残っているとされる。

  除染費用は膨大

 国防総省は、既にJPGの閉鎖を決めている。しかし閉鎖を完了し、州に土地を返還するには、基地内の除染をしなければならない。九六年にロスアラモス国立研究所(ニューメキシコ州)の研究者がまとめたJPGに関する環境リポートによると、劣化ウランのクリーンアップ費用だけで、最終的には七十八億ドル(約八千三百四十六億円)かかると推計する。

 膨大な費用を前に、まだ除染作業が進んでいないのが現実である。だが、その間にも野生のシカなどが基地内の放射能汚染地帯にすみ、大気やエサを通じて体内に劣化ウランを取り込む可能性が高い。

 近くの住民にとってシカの狩猟は、食用目的やレジャーとして昔から定着している。捕獲したシカの肉を食べれば、食物連鎖によって人々の体内汚染につながる。別の地域から取水している飲料水は安全とされているが、汚染水による牛などの家畜、かんがいによる作物への影響も危ぐされている。

 国防総省は「人々の健康に影響するような危険はない」と説明しているが、「付近住民の懸念は強い」とポトーティさんは言う。

 このほか、ニューメキシコ州サッコロ市にあるニューメキシコ州立工科大学付属のエネルギー物質研究試験センターの試射場や、カリフォルニア州ハーロング町のシエラ陸軍武器貯蔵・廃棄所のように、かつての先住民の土地や、現在も先住民が居住する土地が汚染されたり、健康被害が出たりしているケースもある。

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