2000年4月12日
 8 法制定
ダーリエン地図ロバート・ニューマンさん「退役兵を見捨てるようでは、若者は入隊しなくなる」と話
すロバート・ニューマンさん(コネティカット州ダーリエン市)
退役軍人の疾病深刻 不十分な治療と補償

  ニューヨーク市から列車で北東へ五十分。コネティカット州ダーリエン市の無人駅に降り立つと、目印の傘を手にしたロバート・ニューマンさん(69)が、にこやかに迎えてくれた。

 「二年の約束でクリストファー・シェイズ議員の補佐官を引き受けた。湾岸戦争に参加した退役軍人の健康問題を調べるためにね。でも週末、週明けにワシントンと地元の間を通うようになってはや五年だよ」。ニューマンさんは、駅からほど近い自宅へと車を走らせながら、感慨をこめて言った。

  手紙で切実な訴え

 一線を退いた元ジャーナリストの彼に、補佐官就任の声が掛かったのは一九九五年。地元選出のシェイズ下院議員(54)=共和党=が「安全保障・退役軍人問題・国際関係小委員会」の議長に選出された時である。

 「議員の元には、病気になった地元の退役軍人から何通もの手紙や電子メールが届いていた。退役軍人病院に治療を求めたら『作り話だ』といって取り合ってくれなかったとかね…」

 国に奉仕した退役軍人への信じがたい扱い。憤りを覚えたシェイズ議員は、知人のニューマンさんに連絡。「小委員会で公聴会を開き、実態を調べたい。ぜひ調査に協力してほしい」と頼んだ。朝鮮戦争を体験したニューマンさんは、迷わずに引き受けた。

 九六年三月、退役軍人らを招いて初の公聴会が開かれた。その後、一年八カ月の間に計十四回を重ねた。その間に病気を抱える五十人以上の退役軍人や家族、複数の医師、核物理学者、化学者ら各分野の専門家の証言を得た。

  医療記録なくなる

 「公聴会を通じていろんなことが明るみに出てきた。例えば、退役軍人のほとんどの医療記録がなくなっていたとかね」。コンピューターに入力された記録は、ハードディスクごとフロリダ州タンパ市の軍の記録センターに送られたという。しかし、なぜ紛失したかは究明されないままだ。

 現役時代の医療記録がないと、現在の病気との因果関係が証明できない。このため、退役軍人病院で門前払いに遭うケースも頻発した。

 「議会が調査に乗り出すまでの五年前後は、治療や補償を求める退役兵に、国防総省も退役軍人省も手続きに時間をかけた。揚げ句に拒否。いいところ、ストレスを強調するだけ」。現状を知るにつけ、ニューマンさんは、この仕事から身を引けなくなった。

  放射線などに起因

 小委員会を構成する十四人の共和・民主両議員は、科学者や退役軍人らの証言を通じて、二つの事実を確信した。@退役兵の疾病が戦場で浴びた放射線や化学物質に起因することA連邦政府が退役兵を不当に扱っていること。小委員会がまとめた公聴会リポートは、翌九八年十月、二つの法案が成立して実を結ぶ。

 「法案の骨子は、一つが医療記録がなくても、湾岸戦争退役軍人の病気を中東での兵役によるものと認め、国防総省、退役軍人省に適切かつ迅速な治療と補償を求めている。もう一つは、一般社会では当たり前のことだけど、兵士の同意なしに試薬品を与えることを禁じたものだ」

 法案の成立は退役軍人や家族にとって朗報ではあった。しかし、実際の適応となると「全く不十分」と、ニューマンさんも嘆く。治療と補償に多額の費用がかかるからだ。

 「私の今の仕事は、法がきちっと適応されるように退役軍人省を監視することだ」。ニューマンさんは、今後十年内に、退役軍人の間にがんや神経障害が激増することを恐れる。「彼らを見捨てることは許されないよ」

 決意をこめたニューマンさんの言葉の裏には「国防の任に当たる軍人を大切にしなければ」との、米保守派の熱い思いも重なっていた。

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