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みんなの平和教室

 瀬谷ルミ子(日本紛争予防センター事務局長)
 
 


前回の課題

 あなたが一人で生きていくのに必要だと思うものを5つ。紛争で家と家財道具、家族を失った難民が生きていくのに必要なものを5つ挙げてください。理由やどうやって手に入れるかも。
 
 
瀬谷ルミ子 せや・るみこ

1977年、群馬県生まれ。中央大卒、英ブラッドフォード大学院修了(紛争解決学)。紛争後に兵士から武器を回収し社会復帰させることや平和構築が専門。NGO職員(ルワンダ)、国連ボランティア(シエラレオネ)、日本大使館書記官(アフガニスタン)、国連職員(コートジボワール)などとして紛争地での支援活動に携わってきた。2007年4月から日本紛争予防センター事務局長。

日本紛争予防センター http://www.jccp.gr.jp/
瀬谷さんのブログ「紛争地のアンテナ」
   http://ameblo.jp/seyarumi


「安全」確保が大事
助け合う「仲間」を
具体的な「希望」必要


前回の課題は生きるために必要なものについて、難民や国内避難民と私たちの間で共通する点、違う点について考える内容でした。多くの人が、両者に共通なものとして「水」「食糧」「住居」を挙げていました。

難民の保護・支援をする国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の緊急対応ハンドブックでは、難民などが発生した際に必要な支援を住居、水、食糧、トイレ等の衛生設備、日用品、医療等としています。みなさんほぼ正解ですね。


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難民キャンプでは、住居はテントが支給されることが多いです。水は給水車が来るほか、簡易井戸やポンプが作られることが主流です。お金は必要ないと思われがちですが、現実には支援物資にはない衣類を手に入れるためなどに必要なこともあります。働く場所を見つけることも難しいので、難民の多くは支給された食糧や物資を売って現金を手に入れます。

キャンプは、紛争が落ち着いて元の古里に帰ることができるまでの一時的な生活場所ですが、ここも一定の「安全(平和)」が確保されていることが大事です。そのため、周辺を国連の軍隊が警備したりもします。広島市佐伯区、砂谷中2年の下手美映さん、隅本絵理香さん、秋森悠希さん、池上晶華さんはそれを挙げていましたね。

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ダルフールの国内避難民キャンプで、水くみをする女性たち(2007年9月、筆者撮影)

昨年9月に私が訪問したスリランカ北部の国内避難民キャンプは、戦闘から逃れた人たちが小学校の教室に一時的に住んでいました。治安の問題はなかったのですが、新学期を前に学校側が他の場所に移るように求め、次に行く場所が決まるまで人々は不安そうに生活していました。

紛争から逃れてただでさえ精神的に参っている人々にとっては、表面的な平和に加えて心の平和も重要になるのです。

また広島市安佐南区、祇園東中2年、中村亮太さん、町屋奈生子さん、松沢歩唯さんほか何人かは「仲間」と答えていました。紛争によっては一度に数百万人以上の難民・国内避難民が生まれることもあるため、支援物資が十分に行き渡ることが難しいという現実もあります。そんなときお互い助け合うためのグループをつくることが多く見られます。

例えば、麦のように加工しないと食べられない食糧が支給されたとき、製粉する作業を集団で行って、生活するうえで足りない部分を皆で補うのです。共同作業は、難民生活を支える基盤になります。私がやはり昨年9月に訪れたスーダンのダルフール地域の国内避難民キャンプでは、数万人が一つの村のように暮らしていました。内部で争いも起こっていたため、争いを解決したり人々の悩みを聞くグループもつくられていました。


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難民生活のなかで不安や不満が高まると、よくけんかや暴動が起こります。帰る場所がなくなった感覚と、不自由な生活が難民たちを不安定にさせるのです。そんなとき最大の活力となるのが、祇園東中2年林諒太さんが書いたように「自分の家に帰れる」という具体的な「希望」です。多くの場合、難民だけではその希望を実現するのが難しいため、国際社会による支援が行われています。

難民生活が長引くほど、希望を持ち続けるのは難しくなります。衛生状態や栄養状態が悪いと病気で命を落とす人も増えてきます。教育を受ける機会もどんどん失われます。紛争の長期化は、一度は生き延びた人の「時間」や「機会」も奪うことになるのです。