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みんなの平和教室

 瀬谷ルミ子(日本紛争予防センター事務局長)
 


前回の課題

 紛争が終わった国で、大統領を選ぶための選挙を行うことになりました。できるだけ多くの人が選挙について理解し、投票に参加するために、どんな対策や支援が必要でしょうか。

 
 
瀬谷ルミ子 せや・るみこ

1977年、群馬県生まれ。中央大卒、英ブラッドフォード大学院修了(紛争解決学)。紛争後に兵士から武器を回収し社会復帰させることや平和構築が専門。NGO職員(ルワンダ)、国連ボランティア(シエラレオネ)、日本大使館書記官(アフガニスタン)、国連職員(コートジボワール)などとして紛争地での支援活動に携わってきた。2007年4月から日本紛争予防センター事務局長。

日本紛争予防センター http://www.jccp.gr.jp/
瀬谷さんのブログ「紛争地のアンテナ」
   http://ameblo.jp/seyarumi


絵や劇で制度紹介
投票所に警備
用紙に候補者の写真


今回のテーマ「選挙」は、住民の意見を政治に反映する一つの方法です。選挙をするには多くの作業が必要なので、紛争を経験した国がきちんと公正にできるようになれば、国の体制や人々の生活がある程度改善したという目安になります。

ただきちんと行われなければ、人々が失望して不満を持ち、新たな争いの火種になる恐れがあります。紛争が終わってようやく希望を持ち出した人々の期待を裏切らないよう、公正さが非常に大事になるのです。


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ではどのようにするとよいでしょうか。

まずは選挙に関する法律を作り、立候補できるのはどんな人か、何歳以上の人が投票できるのかなどを決めます。次に投票する権利を持つ「有権者」を登録しなければなりません。国内避難民や、国外にいる難民も投票できるよう、国内はもちろん周辺国でも選挙について広く伝え、避難民キャンプや国外でも投票できるようにします。

その際に、選挙の仕組みや投票の意味などを、民族ごとの言語や絵を使って分かりやすく紹介する必要があります。大分県のサホティーヌさんはそれを書いていました。またポスターやチラシを作るという提案は、多くの人がしてくれましたね。劇を作って巡回し説明することもあります。

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右=ルワンダの選挙投票用紙。選んだ候補者の写真の横に、インクをつけた親指で印をつける
左=住民が見守る中、行われるルワンダの村の開票作業(いずれも2001年、筆者撮影)

投票に関しては、怖がらずに投票所に来られるよう、選挙までに民兵を除隊させ武器を回収したり、警備をつけて、武器を持ち込ませないようにすることも必要です。広島市佐伯区、砂谷中2年の田形泰基さん、竹中天魅さん、山田翔太さんや、安佐南区、祇園東中2年の竹延真彩さんが指摘した通りです。

また、選挙前に候補者が住民を脅したり、一部の民族だけ選挙の説明を受けなかったりという不正がないかなどをチェックするため、外国から選挙監視員が派遣されることもあります。

投票の時には、投票用紙に記入する場を幕で覆い、誰がどの候補に投票したか分からないようにする「秘密投票」が大原則になります。落選した候補者に後で仕返しされることを恐れる人もいるからです。

長年の争いで教育の機会が奪われ、読み書きできない人が多くいる国では、砂谷中の真辺加菜さん、加藤元さん、祇園東中の赤司千捺さんほか何人かが提案するように、候補者の写真も投票用紙に載せ、簡単に印を付けることもあります。

ルワンダではインクを親指につけて、選んだ候補者の写真の横に印を付けさせたり、インドネシアでは選んだ候補の写真の横に木の棒で穴を開けさせたりします。日本では投票者の情報をコンピューターなどで管理できますが、それができない国では、投票を終えた人の手に数日間消えないインクをつけ、同じ人が何度も投票できないようにします。開票は不正がないよう、村人みんなの前ですることが多いです。


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日本では投票率の低さが問題になりますが、紛争を経験した国での選挙は新しい社会ができることを実感でき、自分もそのプロセスに参加できるので、人々に大きな希望を与えるイベントです。お金や食べ物を配って投票する人を増やすようなものではありません。

その国や社会を導く候補者を選ぶことが社会の一員としての権利であり義務であること、そして自分が新しい国づくりの担い手であることを人々が理解していく。新たなリーダーを生むと同時に、そのことが選挙の重要な成果だと思います。