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「今」と「未来」を学ぶ
 〜新・平和教育 感じた考えた〜

平和教育ってどういうものなのでしょう。被爆地広島では、原子爆弾が落とされた8月6日のことを中心に学校で学んだ―という人が多いのではないでしょうか。いわば「原爆教育」です。

しかしこれとは、まったく違う動きが最近起きています。世界に今あることをテーマにした平和教育です。今回、ジュニアライターは平和学が専門で神戸大大学院教授のロニー・アレキサンダー先生のワークショップを体験することができました。広島で未来志向の平和教育に取り組む熱心な先生の話も聞きました。

原爆教育と平和教育。過去に学ぶ姿勢と、今の視点。その2つがうまくつながって、よりよいものが生まれると感じます。この新しい試みについて紹介します。

    



 アレキサンダー先生のワークショップ

 ロニー・アレキサンダー先生のワークショップに参加しました。いくつもあるパターンの一部です。約2時間、ゲームや絵を通して、平和を身構えずに考えることができました。ワークショップは、教え教えられる授業とは違い、みんなで体を動かし、対等に話し合いをする中で考えていくものです。(中3・川本千夏)

アレキサンダー先生による「ポーポキ」の説明です。

 

アレキサンダー先生(右)の質問に、ひもをつかむ場所で自分の考えを表現するジュニアライター(写真撮影はいずれも小6小坂しおり)

※ワークショップの様子をそれぞれ動画で見ることができます。スタートボタンを押してね。




(1)日本の平和度 ひもでいえばここらへん

先生が最初に用意したのは一本の長いひもでした。例えば「今、日本は平和ですか」などの質問に対して「Yes」は左、「No」は右側という風に、ひもを持つ位置で自分の考えを表現しました。そしてその理由を説明しました。

印象に残っているのは「戦争をしないことは平和ですか」という質問です。全員が真ん中あたりを選びました。私は個人の感じ方よって違うと思ったから、そこにしました。でもほかの人はそれぞれ違う考え方を説明し、いろんな感じ方があるのだと実感しました。


ジュニアライターに絵本を読み聞かせるアレキサンダー先生(右)







(2)絵本通じて「色」や「味」想像

次は、絵本「ポーポキ、平和って、なに色?」の読み聞かせでした。途中、先生は「平和って何色だと思う」「どんな味かな」と質問してきます。問いに答えがないから、苦手な数学より難しかったです。でも、慣れてくると、自由に答えていいのだ、と思えるようになりました。


ポーポキ、平和って、なに色?


自分なりの答え探し大切

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赤ちゃんのころ、まっ青だった猫ポーポキの目は、大人になってみどりや金色に。平和も角度によって色がちがってみえるかも―。絵本「ポーポキ、平和って、なに色?」はこんな問いかけで始まります。

アレキサンダー先生の書いたこの絵本は5月に出版。ポーポキの生活を通して話は展開し、英訳もついています。

元気よく走り回る「ドドドッ」という音は平和の音、大好きなかつおぶしは平和の味かもしれないと、平和を身近なことに置き換えて表現しています。

質問は、捨て猫だったポーポキの過去にも触れ、命を粗末にする社会が平和なのか、など難しくなっていきます。

しかし、絵本には答えは書いてありません。自分なりの答えを探すことこそ、一番伝えたいのではないか、と感じました。(高3・田辺春奈)


完成した絵の説明をするジュニアライター

(3)動物を主人公に物語づくり

最後の課題は、動物を主人公にして、「これって平和かな」と問いかける物語づくりでした。みんなで話し合い、1枚の絵にまとめました。「象牙を人間が使うために、象を傷つけるのは平和?」というものでした。「悪いのは象を傷つける密猟者?」「象牙を買う人?」と、いろんな考えが出る問いになったと思います。

 

最初は戸惑ったけど…


アレキサンダー先生のワークショップに楽しく参加できました。感想をジュニアライターで出し合いました。

最初は、常に自分の考え方を聞かれる方法に少し戸惑いました。「『平和を感じる』という意味がよく分からなかった」との意見もありました。

だけど「平和とは何か」を、言葉ではうまく説明できないのに、絵本を通し、対話する中で「シロップの甘いにおい」「雲のようにふわふわした感触」と、表現することができました。

学校では原爆の悲惨さについて学びますが、つい聞くだけになってしまいがちです。そこから自分たちにできることは何か、前向きに考えられるのが、このワークショップの特徴だと思います。

全員でストーリーをつくった作業は「新鮮」「楽しい」と好評でした。「正しい」答えがないので、自分なりの意見に、より強い意志が必要だと感じました。(高1・吉岡逸登)



身近な問題を見つめよう


アレキサンダー先生は、飼っていた猫を主人公にした絵を基に、「五感で考える平和」のワークショップを昨年から日本や世界各地で30回以上、開いています。

公園のごみ箱で出会い、15年間生活をともにした猫「ポーポキ」が2年前に死んだのが絵本をつくるきっかけになりました。ポーポキを通せば、子どもたちに分かりやすく平和を考えてもらえると思いついたからです。

先生はかつて、広島に5年間滞在しました。「原爆は大変だった、と話せるのは体験者だけ。次の世代からは同じ方法で伝えることができない」と言います。今の視点で平和問題をとらえないといけない、と教えられました。

そして「学校のいろんな教科や生活すべてに実は平和にかかわる問題があるんですよ」と話していました。(高2・多賀谷祥子)


ロニー・アレキサンダー 1956年米国生まれ。77年にエール大を卒業後、広島YMCAで5年間勤務。神戸大法学部助手、助教授を経て93年から教授。平和教育などが研究テーマ。
 

「人間科」「平和科」


貧困やいじめ 考えなくては −広島工大付属広島高・中


野中先生(右から2人目)のワークショップに取り組むジュニアライター(撮影・中3土田昂太郎)

広島工大付属広島高・中(広島市佐伯区)は、平和な社会に向け行動する力を養う独自の教科「人間科」を全学年で取り入れています。担当の野中春樹先生(54)のワークショップを体験してみました。

「これがなくなれば世界は平和になる」と思うものを書き出し、その中から「みんなが力を合わせれば、なくせるもの」を話し合って消していきます。「飢餓」「自殺サイト」「人種差別」など42個挙げ、19個を消しました。

「意外に消せたね」と野中先生。「伝えたいのは知識ではなく『世の中を変えたい』という意欲なんです」と、狙いを教えてくれました。

この人間科では、出産した人の胎盤に触れたり、ビスケットをクラス全員に不平等に分配して世界の貧富を実感したりするなど、幅広い内容を取り入れています。「大切な命を奪うのは核や戦争だけじゃない。貧困やいじめについても考え、平和をつくる人間を育てたい」という思いが込められています。(高1・吉岡逸登、小6・小坂しおり)

    

原爆に偏らず幅広いテーマ −広島の中学教師の研究会


ジュニアライター(右端)の質問に答える平和科教育研究会の先生(撮影・高2多賀谷祥子)

広島市独自の学習カリキュラム「平和科」をつくろうと、市内の中学校の先生らが自発的にグループを結成。貧困や地雷などの問題をテーマに、教材研究を進めています。

5人の先生が参加する「平和科教育研究会」です。被爆60年の2005年にでき、研究成果は冊子などで学校に伝えています。9日のテーマは「児童労働」。日本もチョコレートの原料として輸入するガーナのカカオの収穫で、私たちと同年代の子どもが働かされ、学校も行けない実態を取り上げました。

提案した城南中の加藤知之先生(53)は「安い労働力の国から資源を奪い取ることで、私たちの生活は成り立っている」と説明してくれました。

幅広いテーマを扱う背景には、平和教育の時間が減ったことや、原爆に偏った授業を何とかしたいという思いがあるそうです。江波中の渡辺公彦先生(54)は「今まで『8月6日』だけにこだわり過ぎていた。身の回りのことに置き換えて平和を考える力をつけないといけない」と言います。(中3・土田昂太郎)