english

フェアトレードを知る
   途上国の実りに、人々の汗の結晶に
見合う対価で声援を。

フェアトレード商品には、紅茶やバナナ、綿製品などいろんな種類がある。代表的なのはコーヒー豆だ(英国のNGOオックスファム提供)

フェアトレードという言葉を聞いたことがありますか。先進国と発展途上国との間の「公正な取引」を意味します。広島市内に先月、この商品を置いた喫茶店ができたのがきっかけで、ジュニアライターのほとんどは初めて耳にしました。

専門家に話を聞き、非政府組織(NGO)などの報告も調べました。パレスチナで刺しゅう製品を作る女性たちにメールを通じて取材しました。

ふだん口にするチョコレートができるまでに、アフリカの子どもたちが長時間働いていることを知りました。大人たちが一生懸命にコーヒー豆などを作っても、十分な収入になっていない現実も聞きました。貧富の問題をあらためて考えさせられました。

しかしヨーロッパ(欧州)に比べると、日本でフェアトレードはまだまだ有名ではありません。広まるには課題もあるでしょう。まずはみんなに知ってもらい、一緒に考えよう。そんな思いで記事を書きました。



 

     広島にカフェ

地図

フェアトレードで仕入れたコーヒーや紅茶を飲める「カフェ・パコ」が先月、広島市中区の区役所近くに開店しました。特定非営利活動法人(NPO法人)ピースビルダーズが、途上国支援を目的に、運営しています。

藤さん(左)に仕入れのシステムについて聞くジュニアライター(撮影・中2松田竜大)

店を取り仕切る藤千慧さん(38)は1990年代、非政府組織(NGO)職員としてルワンダなどで難民支援をしました。タンザニアでは苦しむコーヒー生産農家の人たちと出会いました。

コーヒーの木は約30年で植え替えなければ品質が落ちますが、価格の下落により、数十円の苗を買うお金すら回収できない人もいました。それによって品質が下がり、また買いたたかれるという悪循環があることを知ったそうです。そのころからフェアトレードの必要を感じていました。

カフェではルワンダ大使館などを通じて、買い付けたコーヒーを320―400円で出しています。ボスニアからはフルーツティーを仕入れています。「品質の良いものを正当な値段で買うことの意味を、たくさんの人に考えてもらうきっかけになれば」と話していました。(高1・串岡理紗)

 
地図   

藤さんへのインタビューの様子です

 
 

     NGOが支援

組合で働くイドナ村の女性たち(サラーム提供)

パレスチナのイドナ村。約2万人(約2000世帯)が生活するこの村に、広島市西区のNGOサラーム(パレスチナの女性を支援する会)がスタッフを派遣し、フェアトレード商品を作ったり、輸出したりする支援をしています。

パレスチナでは刺しゅうが伝統産業ですが、安い賃金しか支払われていません。その理由の一つはアジアで大量生産される安い商品との競争に勝てないからです。

サラームの水本敏子さん(48)=広島市中区出身=が1998年に結成にこぎつけた「イドナ村女性共同組合」では約50人の女性が刺しゅうしたバッグなどを作っています。水本さんは品質管理の指導や経理など運営全般を支援し、できたペンケースなどを日本に送る手続きもします。サラームは受け取った商品をバザーなどで正当な値段で売り、その収益を現地に還元しています。

組合では、夫に収入のない人など経済的に苦労している女性を優先して採用しています。6歳から25歳の8人の子どもがおり夫に安定した収入がないサーディア・サレィメさん(41)は1日4、5時間、週5日で月1000シェケル(約2万5000円)を得ています。「自分が家族を支えている」と言い、やりがいを感じているそうです。

先月、中区であったバザーでは、小銭入れなど約500点を販売しました。(中3・見越正礼、中2・松田竜大、中2・坂田悠綺)



 フェアトレードについて調べてみました。  (金額はいずれも9月末現在)

 

日本では年間1人当たり約5円しかフェアトレードラベル商品を買っていない

 

国際フェアトレードラベル機構(FLO)の2006年の資料を基に、フェアトレードと認め、ラベルを張った商品を各国で国民一人当たりいくら買っているかを計算しました。

日本はFLO加盟国20カ国中最下位の0.03ユーロ(約5円)でした。1位のスイスは18.53ユーロ(約3000円)で、日本の600倍以上です。

 

カカオ生産高世界一のコートジボワールでは、3人に1人は学校に通ったことがない

 

国際熱帯農業研究所(IITA)が02年に発表した調査によると、世界のカカオ生産の約70パーセントを占めるガーナなど西アフリカの4つの国では、カカオ生産農家の1家族の年収は30―110ドル(約3500―1万2800円)です。

コートジボワールのカカオ生産農家では、子どもの約3分の1が学校に通ったことがないそうです。

(高2・岡田莉佳子、中1・大友葵)



                    



   60年代 欧州で始まる −拓殖大・長坂教授に聞く

フェアトレードに詳しい拓殖大国際学部(東京都)の長坂寿久教授(国際関係論)によると、日本では1980年代に非政府組織(NGO)などが始めましたが、一般消費者の目に付くようになってきたのはここ3、4年のことです。

60年代、欧州のキリスト教徒たちがアフリカの手工芸品などを販売したのが始まりです。フェアトレード市場の60―70パーセントを占めると言われる欧州では2001年から、年20パーセントの割合で売り上げが伸びています。日本は「欧州には及ばないが売り上げは伸びており、今年は55億から60億円程度の売り上げになる」と推定しています。

フェアトレードの意義について「生産地の協同組合に基金がたまればそこに学校や工場を造ることができる。自立に役立つ支援なのです」と話していました。(小6・小坂しおり)

 

 まず知ろう。現地、身近になるよ 

 

今回の取材の感想を出し合いました。

西アフリカのカカオ農家では通学しない子どもが3人に1人もいるというデータを調べたジュニアライターは「教育を受けずに労働させられてきた人は、カカオでは食べていけないと分かっていても違う仕事に就くことは難しいのではないか」と分析しました。

フェアトレード・カフェを取材した人は「今まで飲んだ中で一番おいしいコーヒーだった」と言いました。大量生産ではなく小さな農家が手間をかけて作る品質の高い商品を買えるのもフェアトレードの魅力です。スーパーやフェアトレード祭(まつり)で試食コーナーを設け、おいしさを知ってもらえれば、日本でももっとフェアトレードが盛んになるのではと考えました。

さらに、お店にフェアトレードコーナーを作り、お金がどのように発展途上国に役立てられるかを説明したチラシやポスターを作ればいいのではないかと思います。

「寄付ではなく対等な貿易をするのだから、『こういうものを作ってほしい』という働きかけをするのも必要」という意見もありました。(中2・坂田悠綺)