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絵を通した国際理解
   伝えたい、僕らの日々。

スリランカの子どもが描いた絵

各国の児童養護施設で暮らす子どもが「ふだんの風景」や文化を描いた美術展が毎年12月、広島市で開かれています。5回目の今年は15ヵ国の施設から約300枚が寄せられ、中区のアステールプラザで12日まで開催されます。「ART PARTY(アート・パーティー)」です。

「ふだんの風景」といっても、広がる農村の様子を描いた子がいれば、銃で撃たれて血を流す人を絵にした子もいます。ジュニアライターは今回この美術展に注目し、絵を寄せた子どもにメールを通じてインタビューをしました。

ストリートチルドレンだった人、住民票が無くて学校に行けなかった人、いろんな背景を持つ同年代がいることを知りました。絵には描いた子どもの写真が添えてあります。その笑顔を見て思いをはせることが、身近にできる国際理解なのかもしれません。

 

 アート・パーティー −養護施設の子どもが描く

 

展示する子どもたちの絵を前に話す渡部さん(左から3人目)とベックさん(右端)。手前には銃で撃たれた人が血を流す絵も

 銃で撃たれた光景も

「ART PARTY(アート・パーティー)」は各国の児童養護施設の子どもたちが描いた絵を1枚1000円以上で買ってもらい、全額を施設に寄付しています。主催団体の一つNPO法人ANT―Hiroshima代表の渡部朋子さん(54)と、発案した米国人のアダム・べックさん(45)に取材しました。

4年前から開いているこの催しは、1996年に来日したベックさんが芸術を通した国際交流ができないかを考えて思いつきました。その後来日し、渡部さんと知り合って実現したのです。「同じ年の子どもでも住んでいるところが違うと描く絵が全然違う」と渡部さんは言います。

出展中の作品を見せてもらいました。スリランカの作品は、紛争で人が撃たれた光景を描いていました。子どもがこんな絵を描くのかと驚きましたが、渡部さんは「これがこの国の現状。見たままを描いている」と言います。同じ年代の子どもがこんな光景を目にしたんだと、実感しました。

作品は、インターネットで施設を調べて依頼するほか、実行委員会に入っている団体のつながりでも送ってもらいます。

今まで25ヵ国32施設が参加しています。1回につき、会場費や宣伝費で約40万円かかりますが、それは寄付などでまかなうそうです。大学生や社会人たち約50人が毎年ボランティアで手伝ってくれています。(中3・室優志、中1今野麗花)


アート・パーティーを取材しました



 
                                
 

 絵の持つ力を実感

 

アート・パーティーのの取材を通して、絵の持つ力の大きさをあらためて実感しました。子どもたちの目線で描かれた絵からは、ありのままの生活や姿が純粋に伝わってきます。国際理解をするのに良い方法だと感じました。

紛争や災害を描いた絵を見ると、それを実際に目にした子どもの心の痛みを想像することができます。また美しい風景や人々の様子からは国境を越えて「大事にしたいもの」を共有し、感動を分かち合おう、というメッセージを読み取れます。

自分たちと同じ年代の人が見た風景だからこそ、より自分に置き換えてそこで起きている問題を考えるようになります。そして今回、描いた人の生きてきた背景を取材したことで、より鮮明に現地の生活が想像できるようになりました。絵を通じた国際交流がもっと広がるといいと感じています。(高3・中重彩)

 

   ネパール −悲しみ経験 筆先には希望

ブデッシュ君(右)とマダン君

ネパールにある「ナマステ・チルドレンズ・ハウス」は、2003年からアート・パーティーに参加しています。現在、2歳半から17歳までの、男女合わせて70人が暮らしています。どの子どももここに入る前は捨てられていたか、孤児でした。理由はさまざまです。

アート・パーティーに絵を出した2人にメールで質問をしました。

マダン・ネパリー君(12)は、03年8月にこの施設に入りました。それまで彼はストリートチルドレンでした。父親が亡くなり、母親は他の男性とどこかに行ってしまったのです。彼と3人のきょうだいは、数ヵ月も路上で暮らしました。

当時8歳の彼と10歳の姉は2人で、食料と引き換えにホテルで働きましたが、その食料もみんなで分けるには足りませんでした。「ホテルの経営者はよくいじめ、食料も少ししかくれなかった」と、つらい思いをしました。あるとき警察が彼らを補導し、それからこの施設にきました。今は友達に囲まれ、学校にも行き、人生を楽しんでいると言います。

ハウスで勉強する子どもたち

彼はその絵に、美しい高原の塔へ1人の僧が歩いていく光景を描きました。ネパールのほとんどの場所が高原にあること、ネパールの宗教感を知ってもらいたいとのことでした。

ブデッシュ・ネパリー君(13)は04年4月にこの施設に入りました。ストリートチルドレンになったのは父親が家族を置いて去り、母親が育児できなくなったからです。

彼はネパールの自然の美しさや、そこに住む人々を描きました。絵を見る人たちに、「田畑で働いているネパールの山村の人々の様子を知って」と呼び掛けています。

世界には私たちと同世代で大変な思いをしている人がいることを知りました。しかし、悲しみや苦しみを経験しても、希望を持って生きる2人の言葉にパワーを感じました。(高1・土江綾)


 

   モンゴル −いつか日本と交流を


モンゴルの子どもが描いた絵

モンゴルでは、学校に通えない子どものための民間教育施設「アチラル・センター」で学ぶツェンゲル・バトナサン君(13)に、実行委員会の一つ「広島浄心院ボランティア」を通じて取材しました。彼は遊牧民の伝統的な生活を家畜とともに描きました。

このセンターでは、絵や編み物なども学べ、84人が通っています。このうち体に障害がある人、家のない人がそれぞれ約4分の1います。

貧しくて、仕事をしなくてはならない子どもも多いそうです。炭坑で炭や薪を運んだり、荷車を押したりする仕事です。暖かい季節は1日9時間くらい働いており、何日も勉強に来ない人もいます。寒い季節でも5―7時間働いており、体をこわす子どももいます。仕事中に事故にあったり、命を落とす子どももいます。センターはそんな子どもたちに、仕事に役立つ技術を身につけさせているのです。

ゲルの中での授業風景

2005年からアート・パーティーに参加し、その収入の7割を子どもたちに渡し、残りで画材を買っているそうです。

ツェンゲル君は田舎で母親と二人暮らしをしていましたが、母親が病気になって2002年にウランバートルに引っ越しました。しかし住民票がないという理由で学校に入れてもらえなかったそうです。それでセンターに2003年に入り、勉強を始めました。今では住民票の手続きができ、中学校に進学しています。

彼は「広島には平和記念公園という美しい公園があると先生に聞いた。いつか日本の子どもたちと一緒に絵を描いてみたい」と話しています。(中2・高田翔太郎)


 

   フィリピン −豊かな自然が誇り


フィリピンの子どもが描いた絵

フィリピンの「チルドレンズ・シェルター・オブ・セブ」は、新生児から15歳までの約70人の世話をしています。ほかにも10人近くの少し年上の青年がいます。彼らのほとんどは、とても貧しい家に育ったり、親が育児放棄したりしたという背景があります。入所してすぐに治療が必要なことや、教育や発育が遅れている問題もあるそうです。

施設で暮らす子どもたち

フィリピンに生息するカンムリワシを描いたジェームス・フランシス・イラジソン君(12)と、棚田を絵にしたジュナリン・アナスコさん(13)は豊かな自然を誇りに思っており「日本の人たちにも来て、見てもらいたい」と話しています。(高3・菅近隆)


 

   カンボジア −カンボジアを好きになってほしい


カンボジアの子どもが描いた絵


カンボジアのフューチャーライト孤児院(FLO)には、エイズウイルス(HIV)などの病気で両親を亡くした子どもが生活しています。4歳から17歳までの256人のほか、ふだんは外で生活し、食事をとるためと教育を受けるために通う子供たちも116人います。


施設で暮らす子どもたち

2002年にこの施設に入ったセム・マカラさん(13)は、幼いころ父親を亡くし、母親と暮らしていました。しかしとても貧しくて、十分な食事をとったり、教育を受けたりすることが難しかったため、親類が施設に入れることを決めました。

彼女の絵にはカンボジアの田園風景が描かれています。この絵を見る日本人に感動と幸せを感じてもらいたいという気持ちを込めました。「カンボジアを好きになってほしい」と言っています。(高3・中重彩)