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絵本の力
   画用紙いっぱいの メッセージ


オリジナル絵本「平和へのかぎ」を作りました。日本に住む男の子が世界で起こっている戦争や飢餓の現実に触れ、平和な世界にするために必要な「かぎ」を探す物語です。

これまで「ひろしま国」で取り上げてきたテーマを中心に、平和でない世界の絵を描きました。目にしたことがない光景を、自分たちと同年代の子どもの現状を想像して表現しました。その作業の中で「平和ってなんだろう」とジュニアライターはあらためて考えさせられました。

この絵本が皆さんに平和を考えてもらう一つのきっかけになればうれしいです。

 
ストーリー ■


主人公は日本に住む男の子です。自分の周りには戦争など生活が脅かされることがないので平和だと思っています。

ある日、突然現れたおばあさんに「これって本当に平和?」と質問を投げかけられます。そして、おばあさんは世界中の平和ではない場所に男の子を案内してくれます。

同じくらいの年の子どもたちが銃を持って戦ったり働いていたりする場面をみて、主人公は自分が知らない世界があることに驚きます。また、子どもがいじめられているシーンでは身近な生活の中にも平和ではないことが起きているのだと気付きます。

平和でない場所に立つたびにどうすれば平和になるのかを考えます。そして「平和のかぎがあればいいのに」と願います。最後に男の子は「かぎ」が身近にあることに気づきます。それは「知ること」「どうすればいいか考えること」「自分にできることをすること」―。(中2・高田翔太郎)

 
 

※下の絵をクリックすると、拡大されたページごとに読むことができます。

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ジュニアライターによる「平和へのかぎ」朗読です

 

 込めた思い −平和でない世界 自ら学んで考えて


 

私たちは平和についてみんなに考えてもらえるような絵本を作ろうと企画しました。文章を質問形式にしたのは読む人に一度立ち止まって考えてほしかったからです。身近な「いじめ」の問題も、世界で起きている「少年兵」などの問題も、私たちが自分のこととして向き合い、考えていかなければなりません。もし自分が同じような立場だったらどんなにつらいだろうと想像しながら読んでほしいです。

表現するために同じ年代の子どもたちの状況を想像したことは、あらためて「平和って何だろう」と考える機会になりました。これまでの取材を通して感じてきた、自分から知ろうと思うことが大切だというメッセージが読む人に伝わり、一人一人が何ができるか考えてほしいです。それぞれのシーンに込めた思いは―。(【】内の数字はページ番号)

【2】 少年兵です。身も心も傷つきながら戦っている子どもを想像して描きました。日本では考えられないけれど、そんな子どもが25万人以上もいるという推計があります。学校が1クラス40人だとすると6250クラス以上になります。

【4】 飢餓を描きました。日本では日ごろ食べ物を残して捨てているけれど、世界にはその日食べる分もない人がいると、もっと考えてほしいです。

【6】 環境破壊です。住みたくない環境を想像してみました。自動車や工場を描くことで、私たちの生活に密着していて、自分たちの未来にかかわる問題なのだと訴えています。

【8】 児童労働を表現しています。世界には学校に行くこともできずに働いている子どもがいることを伝えようと思いました。

【10】 いじめを描きました。この身近な問題は、私たちも目にしたことがあるため、より気持ちを込めて表現しました。

【12】 被爆した広島です。私たちが生活する町で起こった悲惨な出来事を二度と繰り返してはならないという強い意志を感じ取ってください。

(中1・今野麗花、高1・土江綾)

 
 
  絵本研究家・三浦精子さんに聞く 平和伝える姿勢 世界共通

三浦精子さん
絵本の作り方を教えてもらった三浦さん(撮影・中3室優志)

これまで戦争をテーマにした世界の絵本・児童文学書約2000冊を読み、約40年間研究してきた三浦精子さん(71)=広島市中区=に絵本の力について聞きました。日本児童文学者協会の広島支部代表を務めています。

絵本は戦争の事実をただ伝えるだけでなく、作者や画家の目や感情などを通して描いているため、子どもにも伝わりやすいと言います。絵を見ることで読者が想像をふくらませ、考えるきっかけになることも魅力だそうです。

被爆体験を描いた絵本では、広島市東区在住の入野忠芳さんの「もえたじゃがいも」(絶版)を三浦さんは特に薦めています。原爆という悲惨な出来事と心の傷を描きながらも、どぎつい描写はなく、子どもにも読みやすいと言います。

海外では、動物の言葉を通じて戦争を繰り返す人間の愚かさを訴えたドイツ人作家エーリヒ・ケストナーの「動物会議」(岩波書店)、アメリカ人ジャーナリストのエリナー・コアが文章を書いた絵本「つる サダコの願い」(日本図書センター)、フランスの絵本作家トミー・ウンゲラーの「オットー 戦火をくぐったテディベア」(評論社)などがお薦めだそうです。

三浦さんは「80年代初めまでは戦争の事実だけを表現した作品が多かったが、作者の思いが描かれるように変わってきている。それぞれ平和への願いをいかに伝えようかと工夫している姿勢は世界中の絵本に共通している」と話しています。(高3・菅近隆)

 絵本作りワークショップ −自由な表現を大切に
 

ワークショップ
折り紙を切るなどの作業をするジュニアライター(撮影・高3菅近隆)

三浦精子さんに2日間、絵本の作り方のワークショップをしてもらいました。 絵本作りの流れ

まずはストーリーを考えました。今回のテーマである「平和の大切さ」がわかりやすく、子どもが読んでも恐怖心を与えないような内容を考えるように、と教えてもらいました。アイデアは頭に浮かんでも、一つのつながったお話を作り上げることが難しかったです。

計26カットの絵を描くことに決め、6人で分担しました。

三浦さんの提案で、絵は色紙(いろがみ)などを張って表現することにしました。「絵をうまく書くことよりも、自由に表現することが大切」だそうです。

色紙を張った上に絵の具や色鉛筆で描き加える方法は、最初は難しいと感じました。でも何度か失敗をするうちに、自分でもうまくなったと感じて、楽しく作ることができました。文章だけで表現するよりも「平和でない場面」を深く想像することができたことも良かったです。

製本する作業は三浦さんにかなり手伝ってもらいました。そして最後に表紙を作りました。絵本の全体の内容を一枚の絵で表現することは大切だと感じました。(中3・室優志)


絵本作りワークショップの様子です



 
 平和テーマ おすすめ5冊
 

 

平和をテーマにした絵本の中からおすすめの5冊を選びました。個人的な視点で「メッセージ性」「わかりやすさ」「ストーリー性」「リアル度」「感動」の5つに5段階の点をつけました。良いと思った作品から紹介します。(高3・中重彩)

 


 「オットー 戦火をくぐったテディベア」 トミー・ウンゲラー作 評論社


第二次世界大戦時にユダヤ人の男の子が持っていたテディベアのオットーが過去を振り返る物語です。オットーの目線で「ユダヤ人差別」「戦争の悲惨さ」が分かりやすく表現されていて読みやすいです。

絵を眺めているだけで、主人公の心情がよく伝わってきます。特に、戦場の絵は生々しく描かれていて衝撃的でした。人種差別は決して許されないこと、戦争は繰り返してはいけないというメッセージが込められた作品です。


 「せかいいち うつくしい ぼくの村」 小林豊作 ポプラ社


爆撃を受け、破壊されたアフガニスタンの村の物語です。少年ヤモは平穏な生活を送りながらも戦地にいる兄を心配します。子羊に希望を込め、兄が帰ってくる予定の春を意味する名前をつける場面は感動的です。

ヤモの期待が裏切られ、平和な生活が戦争によって破壊されてしまう結末に、悲しい気持ちになりました。


 「地球というすてきな星」 ジョン・バーニンガム作 ほるぷ出版


主人公の子ども2人は神様に海の汚染や温暖化など、世界の現状を見せてもらいます。そして、世界を守るためにおとなたちに間違った行動をやめさせるように託されます。

初め大人たちは子どもたちの言葉を聞き入れませんが、神様の言葉だと知ると行動を改めます。そうして地球はすばらしい世界になります。

メッセージが率直に伝わってくる絵本だと思いました。神様の言葉は、絵本を読む子どもたちに対しての直接の訴えだと感じました。子どもが発信し、世界を変えていくという設定は「ひろしま国」と共通しています。


 「せかいで いちばん つよい国」 デビッド・マッキー作 光村教育図書


幼い子どもにも受け入れやすい、かわいらしい絵が特徴的です。兵隊や武器を持つ「大きな国」の人々が、それらを持たない「小さな国」とのかかわりによって幸せな暮らしとは何かに気づきます。「大きな国」の大統領は敵国の文化に染まる兵隊を非難しながらも、最終的に自分も「小さな国」の歌を息子に聴かせるという場面に心があたたまりました。


 「風が吹くとき」 レイモンド・ブリッグズ作 あすなろ書房


5冊の評価

戦争が始まったことを知ったイギリス人夫婦は、政府の作った手引きに忠実に従って核兵器の被害から身を守ろうとします。核の恐怖が迫っているのに、のんきな会話を続ける2人は放射線を浴び、どんどん弱っていきます。そんな中でも政府の助けを信じ、聖書の一節を読みながら死んでいきます。

夫婦の出てくるシーンは1ページ当たり20コマ前後に分けられ、漫画形式で描かれています。一方、核兵器や戦闘機のシーンは見開き1ページに大迫力で描かれています。戦争と夫婦の生活とのギャップがうまく表現されていると思いました。

一見無意味に感じる夫婦の会話にも作者のメッセージが込められています。でも字が小さく読み仮名が振られていないので、小さな子どもには難しいかもしれません。