english

世界の平和博物館
心からの祈り 国境超えて

戦争がもたらした悲惨な事実を伝える。みんなが安心して暮らすために何ができるかを考えてもらう。そんな「平和博物館」が世界には多く存在します。

6日から10日にかけ、京都市と広島市で国際平和博物館会議が開かれました。アジアや欧米、アフリカの24カ国・地域から各館のスタッフや研究者たちが集まり、果たすべき役割などについて意見交換をしました。会議に合わせ、今回は世界の12施設を取材しました。

戦争や人種差別などテーマはいろいろですが、強いメッセージを発信している点は共通しています。そして多くの博物館が子どもを対象にした、特別な展示や企画をしていて継承への努力が伝わってきました。

平和博物館についての著書がある英ブラッドフォード大のピーター・ヴァン・デン・デュンゲン博士によると、世界で最も多い国は日本だそうです。少し誇らしく思いました。

 
					
 
英国のヴァン・デン・デュンゲン博士 日本の展示 前向きさ必要
 
photo
平和博物館の可能性や課題を説明するヴァン・デン・デュゲン博士(左)(撮影・中2山本真実)
国際平和博物館会議とヴァン・デン・デュンゲン博士へのインタビューの様子です


国際平和博物館会議に参加するため広島を訪れた、英ブラッドフォード大のピーター・ヴァン・デン・デュンゲン博士(60)=平和学=に、取材しました。国連機関から平和博物館についての本を出しています。

平和博物館の定義はいろいろあり、それによって世界には100とも200ともいえる施設があるそうです。先生は「戦争をなくすことをテーマにしたもの」と考えており、「数は確実に増え続けている。軍縮や非暴力による紛争解決を訴える役割は大きい」と期待しています。原爆による白血病で亡くなった佐々木禎子さんと千羽鶴の話はいろんな国の博物館で紹介されているそうです。

日本には平和博物館と呼べるものが50―70あり、最も多く存在する国です。日本の課題について「戦争の恐ろしさを見せることにとどまっていて、どうすれば兵器を無くすことができるか、といった前向きな思考が足りない」と指摘します。「一人の夢は夢で終わるが、みんなが夢見ると真実になる日が来る」という言葉を紹介し、運動を広げる取り組みが必要だと話していました。

私たちジュニアライターは広島に子どもを対象にした平和博物館を造るアイデアを思いつき、意見を聞きました。禎子さんに関する資料などを中心に展示し、原爆資料館は「大人向け」にして役割分担をし、うまく連携させる案です。

「素晴らしい考えだ。世界的な象徴になっている禎子さんは必ず注目を集める。展示内容は広島の子どもがアイデアを出し合うといい」とアドバイスしてもらいました。

先生はまた、世界にある平和博物館ネットワークを使い、原爆の恐ろしさを知る広島の子どもと、核保有国であるインドの子どもが意見を発表するなど、同世代の交流も提案していました。(高1・陶山岳嗣)

 
					
 
世界地図
 
flag アンネ・フランクの家(オランダ) −人種差別の危険性訴え
 www.annefrank.org
 

首都アムステルダムにある「アンネ・フランクの家」は、アンネ・フランク(1929―45年)がナチス・ドイツから逃れるために家族で隠れていた家を資料館にしています。

60年に開館し、彼女の日記や、隠れたスペースへの入り口として使われた回転式の本棚などを展示しています。反ユダヤ主義などの人種差別の危険性を訴え、自由や平等、民主主義の重要性をアピールしています。

訪れた人たちが、意見を表す「Free2choose(どちらか選んで)」という展示があります。「イスラム教の預言者ムハンマドを風刺し、多くのイスラム教の国から抗議を受けたデンマークの漫画を出版したことは、問題ないのでしょうか」など、人権が衝突した場合、どちらを選ぶかを答えてもらい、意見の集計を見ることができます。(中2・山本真実)

 1960年開館。2007年の入館者数は100万2900人。展示資料数は不明。入館料は大人は7.5ユーロ(約890円)。10歳以上は3.5ユーロ(約420円)。10歳未満は無料。
 
flag 反戦博物館(ドイツ) −1925年開館 欧州で最古
 www.anti-kriegs-museum.de
 

首都ベルリンにある「反戦博物館」は、ドイツの平和主義者エルンスト・フリードリヒ(1894―1967年)が1925年に開設しました。フリードリヒの孫であるトミー・スプリー館長によると、現存するヨーロッパ最古の平和博物館だそうです。

フリードリヒは、若いころから軍国主義に反対する活動を続け、第一次世界大戦の恐ろしさを描いた「反戦の戦い」という絵本を出版し、有名になりました。彼は集まった寄付金でビルを買い、博物館を開設しました。一度、ナチス・ドイツによって破壊されましたが、82年に再開し、あらゆる戦争に反対するための展示を続けています。

展示品は、戦争に使われたヘルメットなど、開設当初から伝わる資料もあります。第二次世界大戦で使われた防空壕(ごう)につながっており、当時の雰囲気を体感できます。(中2・今野麗花)

 1925年開館。82年に再開した。2007年の入館者数は4000人以上。入館料無料。
 
flag 国際赤十字・赤新月博物館(スイス) −人道支援の歴史たどる
 www.micr.org
 

ジュネーブにある「国際赤十字・赤新月博物館」は人道支援などの活動の記録を残し、運動の歴史をたどる資料を伝えるために造られました。

「新月」とはイスラム教圏で「十字」が使えないためそう名付けており、活動内容は私たちがイメージする赤十字と同じです。博物館では国際赤十字赤新月社連盟や赤十字国際委員会から集めた応急処置や健康管理のための教育映画など、2万4000点以上の資料を収蔵しています。

若者向けの特別プログラムとして、地雷や自然災害の犠牲者を支援するために何ができるかや、戦争によって分離された家族が再び集まるには、どうすればよいかなどの問題について、職員との対話やインターネットなどを通じて考えるコーナーがあります。現地の最新の情報を手に入れながら答えを出すそうです。(高1・室優志)

 1988年開館。2007年の来訪者は10万2606人。展示資料は240点以上。入館料は大人10スイスフラン(約810円)、学生と退職者は5スイスフラン(約400円)、12歳未満は無料。
 
flag 平和と連帯の国際博物館(ウズベキスタン) −禎子さんや折り鶴紹介
 www.civilsoc.org//nisorgs/uzbek/peacemsm.htm
 

「平和と連帯の国際博物館」は東部の古都サマルカンドにあります。広島や長崎の原爆写真展を開いたり、署名運動を行うなど、核兵器廃絶のための活動が目立ちます。

国連が国際平和年と定めた1986年、平和教育に役立つ博物館を造ろうと、アナトーリ・イオネソフ館長が開設しました。

すべての来館者に佐々木禎子さんの話をしています。子どもに折り鶴の作り方を教えるワークショップは平和教育の柱の一つです。

展示では、長崎の被爆した瓦や広島市の平和記念公園の土などのほか、ベルリンの壁の一部、旧ソ連や米国の中距離核弾頭ミサイルの金属片など、100カ国以上から集まった資料があります。

「ヒロシマ・ナガサキ 追悼と希望の声」という写真展を開き、中央アジアの非核化に向けたウズベキスタン政府の活動を支援するため、署名運動をしたこともあります。(高1・室優志)

 1986年開館。展示資料は約2万点。入館料は無料。入館者数は数えていない。
 
flag 共存センター(スリランカ) −内戦などの歴史伝える
 www.sahajeevana.org
 

南西部の旧首都コロンボにある「共存センター」は、植民地支配や内戦などスリランカの歴史を説明する写真などを展示しています。ホームページ(HP)では平和のために活動した人たちを紹介しています。

ビルの一角を借りて運営していて、将来的には専用の施設を建設する予定です。今年4月からは、1815年から1994年までのスリランカの歴史をまとめた「涙の楽園」という写真展を開催しています。

写真展では、英国の植民地支配を受けた時代に線路の建設工事に従事する住民や、少数民族タミル人の過激派組織との内戦で被害に遭った人などを、約500枚の写真を使って説明しています。子どもたちに歴史について学ばせる機会をつくって、教育格差を埋めようという狙いもあるそうです。

HPには子ども向けに、平和のために活躍した人たちのクイズなどもあります。(中2・山本真実)

 2007年設立。展示している写真は約500点。入場料無料で、非政府組織(NGO)や学校に予約制で開放している。
 
flag ノーモアヒロシマ・ノーモアナガサキ平和博物館(インド) 
−被爆者証言映像も上映 (ホームページは現在工事中)
 

中部のナグプールにある「ノーモアヒロシマ・ノーモアナガサキ平和博物館」は、核兵器の被害や恐ろしさを伝えています。

インドと隣国のパキスタンは、競うように核兵器の開発を進めています。しかしインドの人々の多くは、核兵器が人や環境にどのような影響を与えるのかをあまり知らないそうです。

広島、長崎の被害の写真とともに、インド、米国、ロシアの核実験の様子など、86点の資料があります。広島の展示品は原爆資料館や被爆者団体などから寄贈されました。被爆者の証言映像も上映されています。

学生や若者を対象としたプログラムもあります。学校に資料を持ち込み、平和は核兵器によって簡単に破壊されてしまう、ひどく壊れやすいものだと伝えています。(高2・立川奈緒)

 1997年開館。2007年の入館者は4万286人。展示資料は86点。入館は無料。
 
flag 子ども平和センター(米国) −米とカナダ 移動し授業
 www.childrenspeacecenter.org
 

「子ども平和センター」は、若者に暴力防止や平和構築などを教材を使って考えてもらう移動博物館です。常設展示施設はありません。米国とカナダの公共施設を使い、1回で数週間ずつの「授業」をします。

学校向けの「見学旅行」、地域の「平和フェスティバル」のほか「紛争解決のための人形劇」「平和のための芸術」などのメニューもあります。協調性を身につけ、文化の多様性などを理解します。

米国では7歳の子どもがギャングに勧誘されるような現実がある中、危険な状況を避け、争いごとを解決するための知識と技術を身に付けさせることが目的です。保護者や地域の大人のボランティアの協力も得て、4人の子どもに大人1人がついて、よりよい議論になるようにしています。(中2・大友葵)

 1996年に活動を開始。利用者は年間5000人から1万人。料金はこども1人が7.50ドル(約710円)だが、学校向けにさまざまな料金体系を用意している。
 
					
 
原爆資料館(広島) −資料1万9000点は寄贈品
www.pcf.city.hiroshima.jp/

「原爆資料館」は世界で初めて原子爆弾が投下された広島市中区の、爆心地に近い平和記念公園にあります。

展示されている約420点を含めて約1万9000点の資料があり、そのすべてが寄贈されたものです。中には、遺骨が見つからなかった被爆者の遺族が大切にしていた遺品もあります。寄せられた一つ一つに「将来まで残して伝えたい」という気持ちが込められていると感じます。

また、原爆被害の実態を広く伝えるための取り組みもしています。

例えば、海外へ行く高校生や市民が原爆について伝えることができるよう、英語での表現を教える講座があります。小中学生が似島など原爆に関係した場所で平和について学ぶキャンプもあります。(高2・立川奈緒)

 本館は1955年、東館は94年に開館した。2007年度の入館者は139万9400人。展示資料は約420点。入館料は、大学生以上50円、小中高校生30円。小学生未満は無料。
 
追悼祈念館(広島) −13万編の体験記を公開
www.hiro-tsuitokinenkan.go.jp/
 
追悼祈念館の被爆体験朗読会の様子です


「国立広島原爆死没者追悼平和祈念館」では、被爆死した人の遺影や名前、体験記を見ることができます。広島市中区の平和記念公園内には被爆資料を展示する原爆資料館もありますが、祈念館は被爆者の言葉と心を通じて被害を伝えるという点を重視しています。

体験記はこれまで長崎を含め8万人以上から集まった13万編を公開しています。ラジオ番組で放送された体験談などを聞くこともできます。また館内では、モニターで約1万3000人の遺影を見ることもできます。

毎月第3日曜日には、誰でも参加できる体験記の朗読会もしています。留学生のために英語による朗読もあります。

体験記を書くことができない人の話を聞いて職員がまとめたり、今なら話せるという人にも聞いたりして体験記をさらに集めているそうです。(中2・大友葵)

 
 2002年開館。07年度の入館者は21万508人。被爆死した1万6006人(25日現在)を登録している。入館料無料。
 
沖縄祈念資料館(沖縄) −住民視点で地上戦語る
www.peace-museum.pref.okinawa.jp/
 

「沖縄県平和祈念資料館」は糸満市にあります。第二次世界大戦中、沖縄では県民を総動員した地上戦があり、住民だけで9万4000人が亡くなりました。資料館は最後の激戦地だった摩文仁(まぶに)の丘にあり、亡くなった人の名前を刻んだ「平和の礎(いしじ)」と向かい合うようにして立っています。特色は沖縄戦を住民の視点から見ているという点です。

沖縄戦を米軍の記録映像を使ったり、住民たちが避難したガマ(鍾乳洞)を再現したりして紹介しています。約600人の証言を読むことができます。

子どもを対象にした展示が年4回あり、小中学生から募集した詩、作文を展示する平和メッセージ展、未来に向けて国際理解を深めるための展示もあります。(高2・立川奈緒)

 1975年開館。2000年に建て替えた。07年度の入館者は43万9496人。展示資料は581種類。入館料は大人300円、小学生から大学生150円。小学生未満は無料。
 
「草の家」(高知) −市民運動拠点 手弁当で
ha1.seikyou.ne.jp/home/Shigeo.Nishimori/
 

高知市にある平和資料館「草の家」は、家賃収入や、大人1人3000円の年会費で運営しています。県や市の補助金などは一切ありません。平和イベントの事務局をするなど、市民運動の拠点となっています。

初代館長だった故西森茂夫さんの家の敷地内に鉄筋4階建てのビルを建て1、2階を「草の家」として使っています。3、4階はマンションで、その家賃を運営にあてているのです。

1979年に、西森さんたち30人が開いた高知空襲の展示会が反響を呼び、戦争を伝える資料館がほしいという声が上がったのが開設のきっかけです。「草の家をつくる会」を結成してカンパを集めました。西森さんの家を狭くして土地を確保し、89年に開館しました。現在の岡村正弘館長は2005年からで2代目です。

展示品は200―300点あり、小中学生にも分かりやすいよう、雑誌や防空頭巾などの日用品や、兵士が使っていた水筒などを選んでいます。(中2・今野麗花)

 1989年開館。2007年の入場者は約3000人。展示資料は200―300点。無料。
 
あーすぷらざ(神奈川) −難民や格差問題も紹介
www.k-i-a.or.jp/plaza/
 

「神奈川県立地球市民かながわプラザ(あーすぷらざ)」は大きな課題の解決に向け、身近なことから行動する地球市民を育てるのを目的に横浜市栄区につくられました。1987年、「民際外交」などを唱え、国際交流に熱心に取り組んでいた当時の長洲一二県知事の思いを反映し、計画が動きだしました。

「国際平和」と「こどもの国際理解」「こどもファンタジー」の3つの展示室があります。

国際平和展示室では、第二次世界大戦などの過去の戦争での被害を伝えるとともに「戦争がないというだけでは平和とは言えない」と、難民問題や先進国と発展途上国との格差、熱帯林の伐採など世界の現状と課題を紹介しています。また積極的に平和をつくる人たちの例として、国連や非政府組織(NGO)の活動も紹介しています。(中1・井口優香)

 1998年開館。2007年の入場者は4万7000人。所蔵する資料は約3000点。入館料は大人500円、高校生と65歳以上は300円、小中学生は100円、小学生未満は無料。