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アフリカの子ども(上)
苦しむ声が聞こえますか

国連児童基金(ユニセフ)の「世界子供白書」2009年版によると、世界では3・4秒に1人が5歳未満で亡くなっています。その半数はサハラ砂漠より南に住むアフリカの子どもです。この地域では約7人に1人が5歳になる前に死んでいます。その原因の大半は日本ではあまり身近ではない戦争や飢餓、感染症などです。

広島市を訪れた丹羽敏之・元ユニセフ事務局次長(69)にアフリカの子どもたちが直面する問題を聞きました。特に深刻な問題について現状を調べるとともに、現地で支援している団体などへのメール取材を通じ、子どもや母親の声を聞きました。上下2回に分けて紹介します。

アフリカは遠いところかもしれません。しかし同じ地球に生まれた子どもたちです。まずは知り「もし自分だったら」「自分の子どもだったら」と想像してみてください。

元ユニセフ事務局次長・丹羽敏之さんに聞く  各国支援 連携が必要

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アフリカの子どもの現状を話す丹羽さん(左)

アフリカ大陸の国々は貴金属や鉱石、石油などの天然資源が豊富なのにもかかわらず、貧困や飢餓などの問題を抱えています。子どもたちはどんな問題に直面しているのでしょうか。福山市生まれで元ユニセフ事務局次長の丹羽敏之さん=マレーシア在住=に聞きました。

特にサハラ砂漠より南の国で深刻です。丹羽さんは(1)栄養不足などによる5歳未満の高死亡率(2)エイズを含む感染症(3)安全な水の不足などの衛生状態(4)低い就学率(5)児童労働や人身売買など子どもの権利侵害―を重大な問題として挙げました。

特にエイズについては、推定5万6000人のエイズ孤児がいるスワジランドを2006年に訪れ、学校に通う子どもたちの半数以上がエイズで親を亡くし、親類に養われていることを知り、ショックを受けたそうです。

アフリカへの支援は、1950年ごろから始まり、アフリカ諸国が相次いで独立した60年代に活発になりました。ユニセフは46年、もともとは戦争で被害を受けた子どもたちへの緊急援助を目的に設立されました。現在は、それだけでなく学校建設や、井戸掘りなど、開発援助にも力を入れています。

日本の多くの非政府組織(NGO)も支援をしています。海外のものと比べ小規模で国や分野を限った活動が特徴です。

課題として、丹羽さんは支援を受ける国のために「バラバラにするのではなく横の連携を強め、一緒に活動することが必要」と言います。

しかしこれらの支援は、部族対立や資源の奪い合いなどが原因で起きている紛争が解決しなければできません。現在も争いが起きている国があります。「平和を実現しようとしている国々のサポートをするような援助も必要」と強調していました。(中2・今野麗花、山本真実)



■5歳未満の高死亡率
栄養不足や病気 5人に1人がこの世を去る

ユニセフによると、西部のブルキナファソでは、5人に1人が5歳になる前に亡くなっています。マラリア、赤痢などの病気や、栄養不足などが主な原因です。

現地で栄養改善事業をしている特定非営利活動法人(NPO法人)ハンガー・フリー・ワールド(HFW、東京)を通じ、支援を受けている母親たちにメールで取材しました。

中部にあるクブリ村に住むポーリン・ウエドラオゴさん(50)は9人の子どものうち、2番目と3番目の男の子を8年前と3年前にマラリアで亡くしました。1人は1歳半、もう1人は5歳でした。

中部のタムス村に住むアワ・ザグレさん(45)は10人のうち1人を病気で亡くしました。ほかの1人はポリオに苦しみ、今もうまく歩けません。もう1人も感染症の一つの髄膜炎にかかったことがあります。

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HFWなどによる定期健診を受ける子ども(HFW提供)

HFWによると、この国では、5歳未満のうち3人に1人が、身長や体重が世界保健機関(WHO)の決めた基準に満たないそうです。原因は、(1)雨の不足などで農作物の収穫量が少ない(2)現金収入のために都市に食料を売り、自分たちの食べ物がなくなる(3)父親が一番に食事をするため子どもに食べ物が行き渡らない―などがあります。

そこで、HFWは国営保健センターと連携し、週1回定期健診をするなど子どもたちの栄養状態を確認しています。乳幼児のための食べ物や、診察にきた子どもたちに薬も提供しています。また、母親たちに栄養のある食事の作り方を教えるなど、子どもに必要なケアへの知識を深める活動にも力を入れています。(中2・大友葵、山本真実)

■エイズによる孤児
サハラ以南に1160万人が存在 差別や偏見も

ユニセフによると、世界には約1500万人のエイズ孤児(エイズが原因で親を失った18歳未満)がいると言われています。その約77%の1160万人がサハラ以南のアフリカにいます。

この地域にいる孤児の数は、推定4750万人(2007年)なので、エイズ孤児が約24%をしめる計算になります。1990年にこの割合はわずか1%でした。急激に増えています。

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ケニアでエイズ知識を広めるプラスの現地パートナー団体スタッフ(プラス提供)

「エイズ孤児支援NGO・PLAS」(プラス、東京)の学生ボランティアで、現在ケニアで活動している服部薫さん(23)に現地の様子などを聞きました。

エイズ孤児は「さわるとうつる」などと言われ、偏見や差別の対象となることが少なくありません。他の孤児と同じように、親類に引き取られても労働力と見なされ学校に通えないなど、教育機会を失うことが多いそうです。

06年に服部さんがウガンダで出会ったデリック君(当時7歳)は、両親を亡くし、預けられた親類に捨てられ、路上で倒れているところを地域の人に救われました。現在はプラスの支援先小学校で他の数人の孤児と一緒に生活しています。

現在活動しているケニアには約110万人のエイズ孤児がいると言われています。支援している西部ニャンザ州ウクワラでは人口の4分の1以上に当たる7000人がエイズ孤児です。

つらい状況の中でも子どもたちは夢や希望を持って生きていると言います。将来の夢を聞くと「お医者さんになりたい」「学校の先生になって、孤児にも勉強をしてもらう機会をつくりたい」などと、きらきらした目で語ってくれるそうです。(高2・立川奈緒)



終わらぬ紛争 悲劇の発端

特定非営利活動法人(NPO法人)日本紛争予防センターの瀬谷ルミ子事務局長(31)によると、アフリカでは現在、ソマリア、スーダンのダルフール地方や、コンゴ民主共和国の3カ所で特に大きな争いが起きています。民族・部族間の対立や利権争いなどの原因が複雑に混ざっています。

特にソマリアはひどく、1991年以降、内戦や無政府状態が続いています。92年までに30万人が亡くなったとも言われていますが、正確な数は分かっていないそうです。

子どもは紛争に巻き込まれると、体力がないので食料不足の中で弱っていったり、病気になりやすかったりします。学校が閉鎖される、学校に通う道が危険になるなどの理由から教育を受ける機会をなくします。

また、脅されて子ども兵士として戦いに参加させられるなどの被害を受けることもあります。

紛争はダイヤモンドや石油など資源の奪い合いから始まることもあります。話し合いがうまくいかないとき、リーダーは民族間の敵対心を利用し、民衆をあおることもあるそうです。

紛争を解決していくためにはまず、リーダーたちに話し合いさせ、納得してもらい、戦いをやめさせます。例えば、石油資源の奪い合いなどが原因で83年に南北対立が起きたスーダンでは、国連や非政府組織(NGO)など国際社会の働きかけで、2005年、資源の分け合いや、自治権を認め合うなどの和平合意に達したこともあります。

ほかにも、被害者に食料や薬、テントなどを提供する緊急支援や、兵士から武器を回収すること、公平な選挙で選ばれた人たちを政治リーダーにすることなども解決には必要だそうです。(中2・今野麗花)