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子どもの権利
身近なルール 再チェック

生きていくのに必要な食べ物を得る。教育を受ける。自分の意見を言う―。これらは子どもに認められている権利です。しかし、働かされて教育を受けなかったり、食べ物を十分に与えられないなどの権利侵害が実際、起きています。

これらの事例があまりない日本では、侵害を身近に感じないかもしれません。でも「子どもだから」という理由で自分の意見を聞いてもらえなかったりすることはあるのではないでしょうか。

身近な事例を通じ、子どもの権利について考えてみました。常識だと思っていたことも、権利の視点で見ると侵害の可能性があることがわかりました。権利を持つためには、子どもたちも義務を負う必要があることを学びました。


日常生活で「これって権利侵害?」と疑問に思う事例について、法律や子どもの権利に詳しい専門家3人に聞きました。

戸田慶吾さん

広島弁護士会
子どもの権利
委員会委員

徳本達夫さん

広島文教女子大
人間科学部教授
=教育学

若尾典子さん

佛教大
社会福祉学部教授
=憲法学
子どもの権利を侵害していると思う   していないと思う   どちらとも言えない
女子の制服はスカート限定。髪形にも細かい規制
子どもの権利条約28条には学校の決まりは子どもの尊厳に適合しなければならないとあり、憲法13条は服装の自由を認めています。髪は体の一部なのでより慎重に考えられるべきです。校則は変えるよう提案することもできます。 制服は学校を選ぶ判断材料の一つで必ずしも権利侵害と言い切れません。健康上など合理的な理由がある場合は相談してみましょう。全く聞き入れられずに強制されたら侵害です。丸刈りなど特定の髪形を強制されて、本人に選択肢が全く与えられなければ侵害になります。 スカート着用の強制は女子差別撤廃条約5条「男女の固定観念に基づく慣行」にあたる可能性があります。憲法13条は自己決定権を認めており、義務教育で制服を強制することは憲法違反です。自分に似合う髪形の決定は人格権であると考えられます。
小食なのに給食時間が15分。食べきれないと教室に残される
給食は食文化です。マナーを守り、楽しくくつろぐものです。権利条約31条は文化活動を保障しています。短時間で食べることを強制して子どもの人格を否定することは許されません。 体調不良を訴えたのに強制されたら侵害です。時間や量を決めること自体は侵害にはなりません。すべての項目に当てはまりますが、権利条約では意見を言う権利を認めています。まずは声を上げてみましょう。 憲法13条が定める生命・自由・幸福追求権、権利条約31条が保障する休息および余暇に関する権利にかかわるケースです。個人差を無視し、プライバシーを侵害する強制的なものであってはなりません。
校区外へ出る時親の許可が必要、と校則に書いてある
権利条約の5条と18条は、子育てはまず父母が責任を負い、適当な指示、指導を与えるよう責任と権利を認めています。学校外の生活について校則で一律に定めることは権利侵害ですが、子どもが何でも自分一人で決めることができるわけではありません。 日常的に信頼できる行動を取っていれば、親は簡単に許可するはずです。権利を持つためには子ども自身も責任を果たさなければいけません。子どもが自分の行動への責任能力を持っているのに、一方的に決めつけられれば侵害です。 学校が生徒の私生活を規制するのは、親の責任・権利・義務を侵害する可能性があります。学校の規制によって、親の許可を必要とすることは、問題です。ただ、親の判断で子どもの行動を規制することは、親の責任の範囲内です。
学校へ行きたくない。でも、行くべきと決めつけられる
子どもには成長、発達するための学ぶ権利があります。子どもが学校でいじめられた場合、環境を改善して学ぶ権利を保障しないといけません。学校に通わないことによって子どもの学習権を守ることができる場合は、無理に登校を強制することは権利侵害になります。 いじめなどで心身の危険を感じている学校に登校を強制するのは問題です。「面倒だから行きたくない」という場合は、強制されても侵害とは言えません。他者と共存しながら生きていく。その力を身につけるために教育を受けるのが子どもの権利です。 子どもが学校に行くのは、義務ではなく権利です。憲法26条にもあるように、保護者は子どもに教育を受けさせるため、気持ちよく登校しているか、気を配る義務があります。学校以外の義務教育の場も保障する必要があります。
親が携帯を持つなと言う
携帯を持つことは、子どもの権利ではありません。 出会い系サイトなどの犯罪に巻き込まれる危険が伴うことを認識しなければいけません。親は理由なく禁止しているのではないはずです。塾や学校などの施設に設置された電話を借りる方法もあります。子どもに責任能力があるのに禁止すれば、権利侵害になる可能性があります。 子どもは意見を言う権利を持っていますし、親は子どもに適切な指導を与える義務が定められています。持たせないという判断の理由を子どもにきちんと説明することが大切です。
高校生なのに門限午後5時
権利条約31条は子どもが休んだり自由に遊ぶ時間を保障しています。一方で、親は監護・教育権を持ち、18条は親は子どもを育てる責任を持つと定めています。子どもは親に自分の考えを言って一緒に考えてもらうのがいいでしょう。 その子の能力にもよりますが、これは子がかわいい親心からくるものです。自分が成長したことを親に実感させれば状況は良いほうに変わるでしょう。親としっかり話し合ってください。その時に子どもの意見を全く考慮しなければ権利侵害になります。 高校生に5時の門限はちょっと早い気がします。条約5条は、親の指導は子の発達能力にあったものであることを求めています。12条では、子どもの意見を言う権利権を保障し、その子の能力に合わせて考慮するとあります。友人たちの門限の状況を把握し、話し合いましょう。
子どもは選挙で投票できない
憲法は成人のみに選挙権を認めています。ただ、表現の自由は子どもにもあります。権利条約でも、意見を言ったりグループをつくる権利を認めています。学校で子どもの政治活動が全面禁止に近い扱いになっているところがあります。これは憲法や条約に違反していて許されません。 子どもに選挙権が保障されないのは権利侵害ではありません。新聞への投稿や大人へ自分の意思を表明するなど、間接的に政治に参加することはできます。 選挙権は、子どもと大人を区別する重要な基準です。大人は自分の判断で政治に参画し、社会全体のあり方について自己決定する能力を持っていると見なされます。子どもが決めることができるのは自分に関することに限られ、能力に応じて決める権利を条約で保障されています。
パソコンにフィルタリング。友達のブログが読めない
子どもはいろいろな情報や資料を入手できる権利を持っています。しかし、正しい情報を見分ける知識や判断力は必ずしも身についていません。有害な情報が心や体の発達に影響する可能性もあります。 有害な情報から子どもを守るための仕組みです。成長途中で保護されるのは大事なことです。子どもは、親が納得する日常生活を送れば、状況は好転するのではないでしょうか。 親の指導の範囲内にある問題です。親子でなぜフィルタリングが必要なのかや、子どもにとってどんな不都合があるのか、子どもの発達しつつある能力がどの程度なのかを考えながら話し合うことが大切です。

高2・室優志、高1・古川聖良、坂田悠綺、中3・今野麗花、中2・井口優香、中1・坂本真子が担当しました。


子どもの権利 広がりに課題 −広島大大学院 横藤田教授に聞く



広島大大学院社会科学研究科の横藤田誠教授(52)=憲法学=に聞きました。

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子どもの権利について話す横藤田教授(左)(撮影・中1坂本真子)

子どもの権利は、健やかに成長する▽虐待から守られる▽教育を受ける▽自分の考えを持ち意見を言うなど、子どもが安心して暮らすための権利です。大人の権利と比べ「保護される権利」が重視されています。

子どもにも権利があるという考えは19世紀後半、子どもは教育を保障されなければいけないという考えをきっかけに生まれました。中世ヨーロッパでは「子ども」という区切りがなく、大人と同じように働かされたりしていました。区切りができてからも「権利は大人のもの。子どもに権利はない」と認識されていた時代もありました。

国際的に認められたのは1924年、国際連盟で採択された児童の権利に関するジュネーブ宣言です。飢えた児童は食物を与えられなければならないことなど「保護される権利」が認められました。

これに表現や思想の自由が加わり、大人と同じ権利を持っていると言われ始めたのは70年ごろからです。69年、米国の連邦最高裁が子どもの言論の自由を認める判決を出したのがきっかけです。

条約を締結しても権利が守られていない国はたくさんあります。例えばアフリカのシエラレオネなどでは生きるために必要な食料や医療が十分に与えられておらず、健康に成長する権利が侵害されています。他にも途上国で、生活のために子どもが売られる、結婚させられる、働かされるなどの例があります。

日本のような先進国では生きていくための最低限の権利はあまり脅かされません。しかし児童ポルノがインターネットで配信され広まるなど、先進国ならではの問題があります。(高1・坂田悠綺、中2・井口優香)


私の権利を守るために

1.【意思表示】

権利が侵害されていると思ったら、まずは声に出しましょう。

子どもが権利を持っていることを知っていても、「子どもなんだから言うことを聞きなさい」と言う大人もいます。私たちは不満を持っていてもあきらめてしまうことがあるのではないでしょうか。

子どもの権利を知らない大人もいます。まずは伝えることが大切です。(高1・坂田悠綺)

2.【判断力をつける】

今ある校則や家の決まりなどをまず疑い、正しいかどうか判断する力をつけることが必要です。

女子の制服がスカートに限定される例など当たり前だと思っていても権利侵害の可能性があるものもありました。認められた権利を知り判断する力がないと、侵害に気付き、権利を主張することができません。

一方、私たち子どもは権利を主張しても、危険に巻き込まれたときなどは大人に頼らなければいけません。自分でどこまで責任を持てるか考えながら行動する必要があります。(中3・今野麗花)

3.【相談窓口をもっと知らせてほしい】

子どもが権利について相談する窓口を見つけにくいと感じました。学校で知らされる機会もあまりありません。

電話やメールで気軽に相談し、専門的なアドバイスをもらうことができる窓口があることを知れば、子どもは問題を抱え込まなくてすみます。そのためには、授業の中で取り上げたり、学校の掲示板などで宣伝することを義務づけることが必要です。(高1・古川聖良)


相談窓口

子どもの人権110番 フリーダイヤル0120(007)110(平日午前8時半〜午後5時15分)
  ◇広島弁護士会子どもの悩みごと電話相談 電話090(5262)0874(平日午後4時〜5時)
  ◇法務省インターネット人権相談 http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken113.html


なるほどキーワード

  • 子どもの権利条約

    児童の権利に関する条約。1989年、国連総会で採択された。18歳未満を子どもとし、その権利を守るために必要なことを国際的に定める。現在、米国とソマリア以外の193の国と地域が結んでいる。日本は、94年に批准した。