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世界の子ども記者
思いは一つ「伝えたい」

今回は国内外の子ども記者を取材しました。

米国でオバマ大統領に単独インタビューした小学生、毎年ノーベル平和賞の授賞式を取材しているノルウェーの学校…。活動の仕方や内容、テーマもさまざまでした。

そんな取材を通して、「ひろしま国」のジュニアライターも見習いたいことがたくさんあったようです。

「世界がもっと平和に近づくよう、まずは知らせることが大事」。子ども記者としての思いは共通でした。いつか、世界中の子ども記者が集まって一つの新聞を作れたら―。そんな夢も広がりました。

横浜市で開かれていた「ひろしま国」の企画展は、最終日の23日、同市都筑区の子ども記者15人から取材を受けました。子どもならではの視点や切り口で、読者に情報を発信しようという試みは広がっているようです。


大統領に単独インタビュー −米国の小学生

米国フロリダ州のKECカナル・ポイント小6年のデーモン・ウィーバー君(11)は8月、ホワイトハウスでオバマ大統領に単独インタビューしました。学校のテレビ番組「KEC TVニュース」の記者をしています。メールで取材の感想などを聞きました。

オバマ大統領(左)に給食メニューの改善について問うウィーバー君

約10分のインタビューでウィーバー君は大統領に教育問題や、貧しい地域の子どもたちが健康的な食事を取るために給食プログラムをどのように改善できるか、質問しました。

大統領は今の教育現場の現状などを細かく説明したうえで、教師の質を上げることや栄養バランスのとれた給食を提供することの大切さなどを具体的に話しました。ウィーバー君は「しっかり答えてくれた。握手が力強かった」といいます。

ホワイトハウスのホームページに掲載されているインタビュー映像を見ると、ウィーバー君は落ち着いていて、とても楽しそうに聞いていました。答えによって質問を繰り出すやりとりの仕方を見て感心しました。

昨年から子ども記者をしているウィーバー君はこれまでバイデン副大統領やハリウッドスター、スポーツ選手ら55人の著名人に取材しています。大統領へのインタビューは、大統領選挙中からお願いを始め、動画投稿サイトやテレビ番組を通じて訴えるなど約8カ月かかって実現したそうです。

地域の犯罪問題についての番組も作りました。「人々の関心を高めることがリポーターの仕事。地域をもっと平和にしたいという思いで取り組んだ」と話します。

「KEC TVニュース」には現在、5年と6年の生徒24人が所属しています。課外活動として11年前に始まり、毎朝校内放送をしています。インタビューの準備などは先生が手伝いますが、撮影やリポートは子どもがするそうです。

ウィーバー君は良い取材をするためには、あきらめずに一生懸命頑張ることと、取材相手のことをしっかり下調べすることが大切だといいます。今後は、アメリカンフットボールの選手や宇宙飛行士へのインタビュー、米国の他の街の犯罪問題について伝えたいと話していました。(高2・古川聖良、中3・西田千紗)


ノーベル平和賞を堂々取材 −ノルウェーの中学生

毎年12月、ノルウェーのオスロで開かれるノーベル平和賞の授賞式を取材している子どもたちがいます。同国東部のレナにあるオーモット・ウンダム中の生徒たちです。13歳から16歳の20人が活動しています。2007年から参加している10年生ジョージ・セッケルステンさん(15)にメールで取材しました。

授賞式に参加した米国人俳優シャロン・ストーン(手前左)にインタビューする生徒

この取材は01年から毎年続けているそうです。生徒たちは、ノルウェー外務省から正式なプレス証をもらい、式典や記者会見などを取材します。セッケルステンさんは昨年、大人の記者に交じって受賞者の会見を取材しました。

元フィンランド大統領のマルッティ・アハティサーリ氏が受賞したときに直接質問したことが一番印象に残っているそうです。「世界中のメディアが集まる場所で質問し、興奮した」と話していました。

この活動は、ノーベル平和賞について生徒にもっと知ってもらいたいと学校の先生が始めました。プロジェクトの参加者は、10月に受賞者が決まってから12月の授賞式まで、約2カ月かけて取材の準備をします。先生の助けを借りながら、取材相手や質問を考えます。出来上がった記事の添削もしてもらいます。

記事は自分たちで作ったホームページに掲載しているほか、動画投稿サイトにも載せています。

セッケルステンさんは良い記事を書くためには事前準備が大事だといいます。相手が話す内容についてこちらの知識が足りないことがあってはいけないからです。

私自身の経験と重なるところが多く、共感しました。周りに大人がいるところで堂々と取材しているのにも感心しました。ノーベル平和賞の取材だけではもったいないような気がしました。(中2・小坂しおり)


権利侵害を訴え  −バングラデシュのNGO

バングラデシュの非政府組織(NGO)「シシュ・プロカシュ」は子どもの権利をテーマに、18歳までの640人が活動しています。昨年6月から参加している首都ダッカのウメィ・ハニー・シュロビさん(14)にメールで取材しました。

シュロビさんは、権利を侵害されている子どもが周りにたくさんいることについて自分の考えを他の人と分かち合いたいと思い、参加を決めました。これまでに児童労働や、来年から導入される予定の新しい教育方法について取材しました。

一番心に残っているのは、ストリートチルドレンだそうです。11歳の少年が、花売りの収入で家族4人を養っていました。将来の夢を聞いたところ、「母親に服を1着買ってあげたい」と答えたそうです。予想していなかった答えに衝撃を受け、「人生観が変わった」と話していました。

「シシュ・プロカシュ」は子どもたちのメディアへの参加を促すため現地の別のNGOにより、2005年に設立されました。子ども記者は記事の書き方、カメラなど機材の使い方について講習を受けるほか、子どもの権利についても学びます。

10人ごとにチームをつくり、取材してリポートを書くそうです。大人の記者が手助けします。

記事はホームページに掲載するほか、新聞、テレビ、ラジオでも不定期に発表しています。(高2・見越正礼)


好きなテーマ チームで研究  −日本のグループ

チルドレンズ・エクスプレス(CE、東京)は、関東地域に住む12〜19歳までの記者20人が活動するグループです。記事はホームページ(HP)に掲載しています。英字新聞ジャパンタイムズジュニアに掲載されたこともあります。約6年間活動している頌栄女子学院高3年の三崎友衣奈さん(17)=横浜市青葉区=にテレビ会議システムを使って取材しました。

テレビ会議システムを使いチルドレンズ・エクスプレス記者に取材するジュニアライター(撮影・見越正礼)

CEでは、子ども記者は誰でも取り上げたいテーマを決めることができます。メールで、メンバーの中から取材チームに入りたい人を募ります。取材相手も自分たちで決め、インタビューを申し込みます。大人は記事の添削などでサポートしています。

三崎さんは、中学3年の時、環境問題について取材したことが特に印象に残っているそうです。環境を守るためにはリサイクルが大切だと自分は思っていたけど、それとは反対の考えを持つ研究者にインタビューして驚いたといいます。それをきっかけに「自分と違う考えにも目を向けるようになった」と話していました。

活動を通じ、新聞やテレビで得た情報が本当に正しいのか、考えるようになったそうです。先月の衆院選で各党の環境政策を比べるなど、自分で判断する能力がついたと話していました。

今後は、以前に取材した小学校の英語教育について、さらに取材したいと話します。「賛否両論あるので、もっと調べてみたい」と話していました。(中3・大友葵、中1大林将也)


同世代の活動
ライバル意識
大友葵
題材いろいろ
ねばりに感心
西田千紗
ジュニアライター座談会
同じテーマで
一緒に取材を
大林将也
子ども記者の
会議開きたい
見越正礼


―内外の子ども記者を取材した感想は。

大友 「取材して伝える」っていう、似たような活動をしている同世代にライバル意識を感じた。

西田 文章もしっかりしている。負けられないよね。ほかにも、米国の子ども記者は、何カ月もかかって大統領に取材できた。ねばり強さに感心した。

大林 チルドレンズ・エクスプレスの記者を取材した。取り上げるテーマや取材チームを記者それぞれで決めているそうだよ。会議で決める僕たちとは違っていた。

見越 取材方法やテーマの決め方で見習いたい点があった。

大友 海外の記者たちが自分たちで動画を作っていると聞いて、おもしろそうだと思った。動画投稿サイトなども使っている。発表の方法もいろいろあるんだね。


―「ひろしま国」との違いは。

大友 ほかの子ども記者の記事を読んだけど、大人が書く記事みたいだった。「ひろしま国」とはちょっと違うかも。

西田 平和だけじゃなく、いろんなテーマを取り上げているのも違う。

見越 今起こっている時事問題を取り上げていておもしろそうだった。でも、子どもならではの考えや感想は「ひろしま国」の方が多く含まれていていいと思う。


―これからの「ひろしま国」にどういかせるかな。

大友 「平和」って取っつきにくいテーマだと思われがちだけど、もっと自分の生活に結びつけておもしろい新聞をつくりたい。

大林 事実を伝えるだけじゃなく、自分の意見や提案を盛り込みたいね。

大友 でも「やりました」っていうだけの自己満足にならないようにしないと。

見越 読者に「自分には関係ない遠くのこと」って感じてもらいたくないね。キャンペーン報道をしたり取材相手を巻き込んだりの展開をしたらどうだろう。それがひろしま国のおもしろさだと思う。

西田 アイデアをいろんな人に聞いてみたい。


―例えばどんなことが考えられる?

見越 世界の子ども記者と一緒に取材したり、新聞を作ったりできないかな。

大林 テレビ会議システムを使って同じテーマについて一緒に取材してみたい。

大友 同じテーマでも、国によって違う取材ができるかも。

見越 結果を持ち寄って、子ども記者会議を開くのも楽しそうだね。