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子どもの肥満・饑餓
食の環境 考え直そう

世界には飢餓に苦しむ子どもがいる一方、肥満に悩む子どももいます。

取材では「裕福だから太る」「貧しいから飢える」という構図が、すべてに当てはまるわけではないことに気付きました。途上国にも肥満の子どもが大勢いるのです。貧困が肥満を招いている現状もありました。

肥満はさまざまな病気を引き起こします。肥満にならないようにするには、規則正しい食生活や適度な運動が大切です。もちろん、体形を気にしすぎて無理なダイエットをするのは体によくありません。個人的な取り組みだけでなく、社会全体で解決に向けた取り組みをする必要があります。

健やかに生きるのは子どもの権利です。世界で起きている「肥満と飢餓」に対し、私たちは何ができるのでしょうか。


途上国3500万人 太りすぎ 安いジャンクフード原因

世界保健機関(WHO)によると、世界では約4300万人の就学前の子どもが肥満に悩んでいます。子どもの肥満は21世紀の深刻な健康問題となっています。

問題に詳しいWHOのゴッドフリー・シューレブさん(48)に取材すると、そのうち3500万人近くがインドや中国など途上国に住んでいることが分かりました。糖分や脂肪分、塩分が多い食べ物の方が果物や野菜よりも安く手に入るからだそうです。太りやすい食べ物の宣伝も、子どもが健康的な食べ物を選ぶ機会を減らしています。

肥満と栄養失調が同時に起きることも問題です。脂肪分や糖分が多い手ごろな値段の食べ物は、ビタミンやミネラルが少ないため体形は肥満なのに栄養失調を引き起こしてしまうのです。

「子どもは周りの環境に影響される。健康になれるような環境づくりが大切だ」とシューレブさん。農業、都市計画、教育などの政策も重要だと言います。また、果物や野菜、豆類などの摂取を増やして砂糖や塩を制限し、5歳から17歳までの子どもは1日に最低1時間の運動を心掛けることも大事だ、と説明します。(高3・古川聖良)


世界には十分な食べ物 無駄省けば飢えなくせる

世界には全ての人々が十分食べていけるだけの食べ物があるのに肥満と飢餓が存在します。この問題を解決するため、私たちに何ができるのか。NPO法人アジア太平洋資料センター(東京)で理事を務める佐久間智子さん(44)=写真=に聞きました。

「食べ物に関心を持って」と佐久間さんは呼び掛けます。トウモロコシの多くは、先進国の人が食べる動物の餌に使われています。先進国では食べ物の廃棄も多いのです。食べ物を無駄にするのをやめれば、飢えがなくなるだけの食べ物がある、と指摘します。

日本は食料の多くを輸入に頼っています。口にする食べ物はどこで作られているか。自分が住む地域ではどんな食べ物が生産されているのか。それらを知るべきだそうです。「自給できれば、世界中から買い集めている食料の量を減らせる。今まで奪ってきた分を返せるかもしれない」と強調します。

途上国で作られた農作物が適正な価格で取引されない構造が続けば、飢餓はなくなりません。私たちがフェアトレード商品を積極的に買うことも大切だそうです。(中2・末本雄祐)


フェアトレード 先進国と途上国との間の「公正な取引」。消費者の低価格志向などに応えるため、途上国の生産コストを下回るような安い値段で買いたたくのではなく、生産者の生活向上につながるよう公正な値段で取引する。商品にはコーヒーや紅茶といった食品をはじめ、衣類、手工芸品などがある。

健康メニューで給食費寄付 山口県立大も参加


肥満と饑餓を同時に解決しようと取り組む、右から山口県立大の中元さん、高家さんたち

■5カ国に640万食分

健康メニューを食べると、20円(1食分)がアフリカの学校給食につながる取り組みがあります。先進国の肥満と途上国の飢餓を同時に解決しようと、東京のNPO法人「テーブル・フォー・ツー」が2007年から続けています。活動には全国の企業や大学などが参加しています。

エチオピア、ウガンダ、ルワンダ、マラウイ、南アフリカ共和国の60の小学校や幼稚園には、これまでに約640万食を寄付しました。現地では、給食がないと一日中何も食べられない子どもがほとんどです。

昨年9月、ルワンダを視察した事務局の安東迪子さん(28)は現地の人の言葉が忘れられません。「生まれた時から食べ物がないのでつらいという気持ちはなかった。ただ栄養不足で抵抗力が落ちれば伝染病でみんなが死んでしまう。それが問題だ」。給食が突然なくなるつらさも耳にし、支援は絶対に途中でやめてはいけないと感じたそうです。(中2・坂本真子)

■「笑顔増やしたい」

山口市にある山口県立大の学生も「テーブル・フォー・ツー」に参加しています。1、2年生を中心に2009年から食堂や学園祭で、カロリーや体への効果を考えた健康メニューを提供しています。

これまで季節に応じて11種類924食を販売しました。肌によいといわれる豆乳や野菜をたっぷり入れた「豆乳みそ煮込みうどん」、ヨーグルトやイチゴを入れたマフィンなどです。

学生グループの副代表で2年の中元美穂さん(20)は「世界の食料の分配が偏っているので食べられない子どもがいる。現状を他の学生や地域の人に知ってもらいたい」と強調します。

代表の2年高家あゆみさん(20)は「給食を食べて笑顔になる子どもが増えてほしい。世界の問題を自分のこととして捉え、行動したい」と力を込めました。(中2・吉本芽生、中1・河野新大、写真も)








家族ぐるみの対策必要 無理なダイエット禁物

「和食傾向でバランスの取れた食事」と「楽しく続けられる運動」を提唱する西先生(撮影・中2坂本真子)

広島赤十字・原爆病院の西美和先生(62)は「子どもの肥満は大人になっても続きやすく、糖尿病や高血圧など生活習慣病にもつながります。家族で対策に取り組むべきです」と強調します。

子どもの肥満には不規則な食生活や運動不足、ストレス、体質が関係しています。例えば一人で食べる孤食による栄養バランスの偏り、夜食も影響しています。家庭へのゲームやパソコンの普及で外出が減り、ストレスで食べ過ぎてしまうことも原因になるそうです。

西先生は「野菜を増やし、よくかんでゆっくり食べましょう」とアドバイス。家族と楽しみながらできるジョギングや縄跳びなどの運動にも取り組むべきだと言います。近くの小児科への受診も薦めます。

ただ「極端に摂取カロリーを減らし、子どもの成長を妨げてはいけません」と忠告します。無理なダイエットでやせ過ぎる人もいるので、あまり神経質にならないことも重要だそうです。(高1・田中壮卓)


日本の子どもの肥満 文部科学省によると、肥満傾向児の出現率はデータがある1977年度から上昇傾向にあったが、2003年度あたりから低下傾向にある。算出方法を変えた06年度以降も低下傾向にあるという。低下の理由は「太り過ぎはよくないという意識や朝食を規則正しく取ろうとする意識が広がった。学校での栄養指導の影響もあるのではないか」とみる。しかし比較が可能な77年度と06年度では、10歳の子どもの場合、肥満傾向児の出現率は約1・6倍に増えている。

小児科医に聞く「肥満予防の10カ条」

広島赤十字・原爆病院の西美和先生に、子どもの肥満を予防するための10カ条を聞きました。


1.ごはんやパン、麺などの主食は食べ過ぎないようにしましょう

2.タンパク質のおかずはきちんと食べましょう

3.野菜はたくさん食べましょう

4.薄味を心掛けましょう

5.1日30品目を目標にバランスよく食べましょう

6.一口30回以上かむ習慣をつけ、ゆっくり楽しく食べましょう

7.おやつは低カロリーなものを決まった時間に食べましょう

8.夜食はできるだけやめましょう

9.給食のお代わりは控えましょう

10.食事療法は根気よく続けましょう。
    生活が不規則になりやすい長期の休みには特に注意を。