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田舎の底力(上)
自然と絆 自給自足支える

日本の人口は現在、1億2800万人余り。世界で10番目に多く、世界の人口の1・9%を占めています(2010年)。しかし、少子高齢化に伴い減っていく傾向です。東京や千葉、埼玉、大阪など都会を中心に9都府県で人が増えている一方、38道府県では減少。特に、山間部や島しょ部など田舎ではどんどん人が減っています。

では、田舎はみんなが暮らしたくないような場所なのでしょうか。

都会は歩いて行ける所にスーパーやコンビニがあり、お金を出せば好きな物が買えます。病院や学校も近くで便利です。

田舎の特徴は、お金で買えないような手作りの品や自然の産物、そして人のつながりです。放牧した羊の毛を使ったセーターに、栽培した大豆や野菜を生かした豆腐料理、地元の米や牛乳、卵を使ったパン…。田舎だからこそできる自給自足の様子を取材しました。


羊を飼育 暮らし支援も
出雲市佐田のグリーンワーク

出雲市佐田町の飯栗東村(いいくりひがしむら)地区で活動する「メリーさんの会」。会で作るマフラーやセーターは、すべて地区で育った25頭の羊の毛を使っています。1頭でベスト約4枚分。実用性と安心のせいか、1年先まで予約でいっぱいです。

地区は人口の4割が65歳以上です。重労働である水田周りの草刈りに羊を放牧しようと、地元住民30人でつくる特定農業法人「グリーンワーク」が2005年に始めました。「みんな羊に癒やされている」と社長の山本友義さん(64)。羊を撮影しようと車が行列をつくることもあるそうです。

グリーンワークは農業経営だけでなく、地域貢献できる会社を目指しています。メリーさんの会に加え、高齢者が病院や買い物に行く時の送迎や町内の公園管理もしています。一年を通して業務があるので雇用にもつながるそうです。山本社長は「利益にはならないが、行政の手が届かない部分を担いたい」と話していました。(高2・高田翔太郎、中2・来山祥子)

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「グリーンワーク」で飼っている羊。5月下旬に毛を刈り、毛糸にしてベストやマフラーを作る

地域の輪 豆腐がつなぐ
安芸高田市吉田の夢茶屋

サンフレッチェ広島の本拠地、安芸高田市吉田町の可愛(えの)地区に豆腐料理店「えーのー夢茶屋」があります。地区で生産された大豆100%の豆腐と、地元産の野菜を使った料理を提供。地区の155世帯でつくる農事組合法人「えーのー」が経営しています。

米の減反に伴う転作をする際、機械化しやすい大豆作りを始めました。大豆に付加価値を、と2001年、地元の女性15人が豆腐作りと販売を開始。さらに「出来たてを食べてほしい」と03年に夢茶屋を開いたのです。

豆腐の製造とレストラン経営で雇用が生まれました。豆腐作りに試行錯誤するうちに、あいさつさえしなかった地域の人が仲良くなり、連携も強くなったそうです。とはいえ高齢化が進み、後継者の育成が課題です。

「夢茶屋」の店長常光真裕実さん(53)は「おいしい豆腐を作りたい一心でやってきた。これからも安心安全なものを出し続けたい」と言います。(高3・楠生紫織)

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木の温かみが感じられる「えーのー夢茶屋」の店内。サンフレッチェ広島の選手のサイン色紙も飾ってある(撮影・高3楠生紫織)

施設まとめて交流の場
新見市哲西のきらめき広場

新見市哲西(てっせい)町にある「きらめき広場・哲西」は、一つ屋根の下に診療所や図書館、文化ホール、保健福祉センター、市役所の支局などが揃っています。ここに来れば一度に用事が済みます。特に、車で移動しにくい高齢者には便利です。

図書館にはDVDやCD、漫画もあります。地域活動団体の支援や子育てサロンなどをするNPO法人「NPOきらめき広場」の事務局もあり、多くの人が来ます。

施設の利用者は年間約5万8000人。町民1人が平均19回も訪れているのです。

「村は絆があってなんぼ」と、NPO理事の深井正さん(74)は強調します。人が集まり、出会う機会が増えれば絆が生まれる、といいます。

広場ができた後、警察の駐在所や消防署も近くに移転。隣にある道の駅には、レストランやパン屋さんがあります。深井さんは「後はコンビニと郵便局、農協、喫茶店があればいい」と理想を掲げます。(中3・小坂しおり、中2・寺西紗綾)

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廊下に面して開かれた図書館。床暖房が効いていて座って読むこともできる(撮影・中3小坂しおり)

中国地方の山間部には、地元産の米や野菜、牛乳などを使う、こだわりのパン屋さんがたくさんあります。田舎だからこそ自給できる「食」の一部です。
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米や牛乳、野菜など地元の素材を使ったこだわり商品が並ぶパン屋さん

脱「心の過疎」 日本版パブを
島根県中山間地域研究センター 藤山さん

島根県中山間地域研究センター(島根県飯南町)研究企画監の藤山浩さん(51)は、過疎が進む田舎を活性化するには、住む人が地域に誇りを持ち、田舎の魅力を生かすべきだと言います。

急激な人口減を意味する「過疎」。1960年代に高度経済成長が起きました。山間部のまきや炭を使っていた燃料が、石油やガスに変化。安価な木材の輸入も増え、林業が衰退しました。同時に沿岸部に工場が集中。都市へ人が流出しました。

とはいえ、日本の過疎地域の人口密度は1平方キロメートル当たり平均52人。世界全体の人口密度47人より高いのです。「本当は過疎じゃない。ここには何もないと自分たちで思う事が問題だ」と藤山さんは心の過疎を指摘します。

昨年10月、藤山さんはイタリアの山間部にある人口約1000人の村を訪れました。「すごい!過疎じゃない」と驚きました。自分たちの衣食住を自分たちの地域でまかなっています。手作りパスタ歴50年のおばあちゃんに、地元の牛乳でチーズを作っているお兄ちゃん。ここのチーズは世界的にも有名です。彼らは自分の仕事、地域に自信と誇りを持っています。

藤山さんは、人が減る過疎に対しては「日本版パブ」づくりを提案します。英国にはどんな田舎にもパブがあります。酒場だけでなく、昼間はレストランでもあり子どもを預かる場にもなっています。郵便局や商店、クリーニングの集配、DVDのレンタルもします。多機能で便利です。

日本でも同様な施設を、と藤山さんは考えているのです。学校や役場、病院、商店などが集まった場。人と人、情報がつながる場です。

各自が少量多品種を作る田舎。人や自然、伝統とのつながりが深く、自給できる力があります。藤山さんは、モノが作れる強みを生かした、田舎と都市の交流に期待を寄せています。(高3・楠生紫織、中3・小坂しおり、中2・木村友美)