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中高生の平和活動
ヒロシマ 僕から私から


ジュニアライターが、同世代である中高生による平和活動を取材しました。「ヒロシマ」を考え伝えようと、被爆者や専門家の話を聞いたり、アニメーションで発信したり、さまざまな活動を繰り広げています。東日本大震災で被災した人たちを励ます募金活動にも取り組んでいます。

取材を通して、ジュニアライター自身も平和のために行動したいと強く感じるようになりました。意見を出し合い、提案をまとめました。

私たちができることは小さな一歩にすぎないかもしれません。でも、小さな活動を積み重ね、核兵器の恐ろしさや、平和の大切さを訴え続けなければならないと思います。それが被爆地広島に生きる私たちの「使命」だと考えるからです。


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被災者支援のため、菓子を販売する広島インターナショナルスクールの生徒(撮影・高3古川聖良)

震災地を支援

東日本大震災の被災者を支援するため、広島県内の中高生が募金活動をしています。

広島女学院中(広島市中区)の生徒は、15日から18日まで、登校時に校舎の入り口で募金を呼び掛けました。3年村井咲絵さん(15)は「自分たちはいつも通り暮らしているのに、同じ日本で大変なことが起きている。現地には行けないけれど、とにかく何かしたかった」と、活動を始めた気持ちを話します。福島第1原発の事故がこれ以上大きくならないようにと願ってもいます。

広島インターナショナルスクール(安佐北区)では25日、園児から児童生徒までが持ち寄った手作りの菓子を校内で販売しました。収益は、公益財団法人の「プラン・ジャパン」(東京)を通じて、被災地の子どもたちの支援に役立ててもらいます。

また、県立広島中・高(東広島市)も校内で募金を集めるなど、動きは各校で広がっています。(高3・村重茜)


手作りアニメ

牛田中(広島市東区)の美術部は昨夏、平和への思いを込めた「ねがい」という曲を基に、アニメーションを作りました。武器や地雷の撲滅、世界平和など歌詞のイメージに沿って描いた約千枚の絵をつなぎ、8分20秒の映像にしました。

「ねがい」は2002年に大州中(南区)の平和学習で生まれました。続きの歌詞が世界中から寄せられ、今では2千番を超えています。美術部員は「空を飛んでいるのが戦闘機じゃなく、流れ星だったなら―」など五つの歌詞を選んで絵コンテを考え、約2カ月かけて完成させました。

3年の森野衣澄さん(15)は「争いがなくなり、子どもたちが笑い合える世界にしたい」と込めた思いを話します。美術部では今後も「ねがい」のアニメ制作を続ける予定です。アニメは牛田中のホームページで見ることができます。(高3・村重茜・写真も、中3・石本真里奈)

アニメ「ねがい」の制作に使った水彩画を手に取る牛田中の生徒

長崎とともに

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長崎の被爆者の体験談を聞くなど、今後の予定を話し合うメンバー(撮影・中3石本真里奈)

高校生や大学生が中心となって運営するグループ「広島と長崎をつなげるプロジェクト」が1月に発足しました。核兵器廃絶や平和のため、二つの被爆地がつながり、大変な体験や復興の歴史を学び伝えるのが目的です。

事務局は広島市中区上八丁堀にあり、活動は4月から本格化させます。月に1回、広島、長崎の被爆者や平和活動をしている人の話を聞きます。長崎原爆の日の8月9日には広島で慰霊祭をします。グループで学んだことを「ヒロシマナガサキ新聞」にまとめ発信することも考えています。

リーダーの広島なぎさ高3年福岡奈織さん(18)は「いろいろな人との出会いを大切にしながら、長崎とのつながりを深め、核兵器廃絶のうねりを大きくしたい」と意気込んでいます。(高2・岩田皆子、中2・市村優佳)


ボランティア

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渡部さん(左から5人目)の話を聞く、ヒロシマ・ユナイテッド・チルドレンのメンバー(撮影・高1田中壮卓)

広島に中高生だけで企画、運営するボランティア団体「ヒロシマ・ユナイテッド・チルドレン」が昨年11月にできました。目標は「ヒロシマから平和を」です。代表の広島なぎさ高2年渡辺愛子さん(17)は「被爆者の高齢化で原爆の風化が進むのが怖い。同世代の人たちとヒロシマについて考え、身近な活動を積み重ねたい」と意欲を見せます。

学校周辺の清掃をはじめ、平和活動に携わる人たちの話を聞いて参考にしています。NPO法人ANT-Hiroshima代表理事の渡部朋子さん(57)からは「きのこ雲の下で何があったのか、世界の人に正しく伝えて」と助言を受けました。

7月には広島県内の中高生を対象に原爆や平和について話し合うフォーラムを開く予定です。(中2・佐々木玲奈)


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原爆の子の像の前で開いた碑前祭(2010年7月23日、幟町中提供)

原爆の子の像で碑前祭

2歳で被爆し、白血病のため12歳で亡くなった佐々木禎子さんの母校、幟町中(広島市中区)の生徒たちは毎年7月、平和記念公園(同)にある「原爆の子の像」で碑前祭を開いています。

原爆の子の像を建てる運動は、禎子さんの死をきっかけに全国に広がりました。当時の幟町中の生徒たちも募金活動をするなど、運動を大きく支えました。昨年の碑前祭には市内の小中学校の児童、生徒約400人が参加しました。前生徒会長の3年長廻恵唯さん(15)は、自分たちで考えた「平和アピール」を発表し、武器のない平和な世界を目指して行動する―と誓いました。長廻さんは「戦争はいけないと思うだけでなく発信することが大切。広島の子として、平和への思いを多くの人に伝えたい」と話していました。(高3・村重茜)


欧州にサダコ

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原爆展で佐々木禎子さんを紹介したスロベニアのグループ「千羽鶴」=2010年2月(ひろしまエスペラント会提供)

欧州にあるスロベニア北東部のマリボル市に「千羽鶴」というグループがあります。世界共通のエスペラント語でヒロシマを発信している「ひろしまエスペラント会」(広島市南区、忍岡守隆代表)を通じ、メンバーのヘレナ・シュルツさん(15)にメールを送りました。

「千羽鶴」は昨年、マリボル市内にある国立解放博物館が開いた原爆展に協力するため、結成されました。メンバーは15歳の少女4人です。

開会式では、被爆10年後に亡くなった佐々木禎子さんを紹介し、禎子さんをイメージした踊りを披露。シュルツさんは「犠牲者や、被爆後も懸命に生き抜いた人のことを考えると、原爆は許してはいけない」と感じ、心が震えたそうです。

6月にはメンバーが通う中学校でも原爆展が開かれます。シュルツさんは「もっと多くの生徒に戦争の恐ろしさを伝えたい」と誓っていました。(中2・大林将也)


フランスの空手クラブが平和発信

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核兵器廃絶に向けて取り組む空手クラブのメンバー(ガンデイさん提供)

フランス南東部のヴォール・アン・ヴラン市にある空手クラブでは、16〜18歳を中心としたグループが、2009年から核兵器廃絶を目指して「広島・長崎プロジェクト」に取り組んでいます。イランの核開発をめぐる報道を受け、メンバーが核問題に関心をもったことがきっかけでした。

メンバーは昨年、スイス・ジュネーブの国連事務所を訪れて核兵器について学んだり、フランス国内で原爆展を開いたりしました。原爆展では、フランス在住の平和活動家美帆シボさんが制作したフランス語版のアニメ「つるにのって」を上映しました。アニメは佐々木禎子さんをテーマにしています。

この夏には広島、長崎を訪問する計画です。クレール・ガンデイさん(17)は「帰国後、地元の若者に被爆者の証言や写真を紹介したい。核兵器廃絶の大切さを訴えたい」と話していました。

イタリア語で歌う「ねがい」

イタリア北部のモデナ市にあるカボール中学校には「子ギツネたち」というグループがあります。2005年にでき、異文化交流などに取り組んでいます。

広島で生まれた「ねがい」という曲の歌詞をイタリア語に訳そうとしています。「ねがい」は広島市内の中学校の平和学習で誕生。今では、世界中から歌詞が寄せられ、2千番を超えています。代表のマルティナ・ベニンカーサさん(14)は「希望と平和のメッセージを感じることができ、メロディーがとても美しい」と話します。

モデナ市などでは5月に原爆展が開かれます。中学校でユダヤ人虐殺(ホロコースト)やヒロシマの悲劇を学んでいるというベニンカーサさんは「第2次世界大戦の証言について資料を交換するなど、広島の中高生と交流したい。いつか広島を訪れてみたい」と話していました。


先輩からのアドバイス 若沢公利さん  理念とつながり大切に

「グループをつくった時の理念を忘れずに活動を続けてください」―。中高生が全国45カ所で運営するボランティア団体「ユナイテッド・チルドレン(UC)」のOB・OG会長で、東京大2年の若沢公利さん(21)はこうアドバイスします。

若沢さんは、UCで活動する後輩たちの相談に乗っています。活動に欠かせない仲間づくりは、「自分のやりたいことをまず友だちに話そう」と言います。困った時には、「経験豊かな大人にも相談し、中高生の強みである『エネルギー』を発揮して」と助言します。

活動方針を明確にすることも大切です。メンバー間で意見が割れることがあるかもしれません。しかし「そんな時こそ原点に立ち返る。『とりあえずボランティアをやっておけばいい』という考えでは、単なる仲良しグループになってしまう」と忠告します。

息の長い活動にしていくには、後輩にも役割を任せながら自分の思いを伝えることが大切です。グループを卒業した後も仲間たちに会うことを勧めます。「助けを必要とされた時に駆け付けられるよう、つながりを持っていこう」と強調します。(中2・佐々木玲奈)




自分たちがしたい四つのこと

ジュニアライターは今回の取材を受け、自分たちがどのような平和活動をしたいかを話し合い、四つの柱を提案します。

中高生が乗る世界一周船の旅

寄付金を集め、船を用意します。船内に国境はありません。世界各国の10代が広島に集まって原爆について学び、さまざまな国に寄港します。貧困にあえぐアフリカ諸国、米国ニューヨークの国連本部、平和憲法を持つコスタリカ、核実験があった南太平洋ムルロア環礁などです。移動中の船内では戦争や民族対立などをテーマに話し合って理解を深めます。


ヒロシマを知る

原爆資料館(広島市中区)に行き、被爆者の話を聞きます。日本がなぜ戦争をしたのか、原爆の被害はどうだったのか、どのように復興したのかを学びます。


絵を通じた交流

世界の子どもたちと互いに「平和」をテーマに絵を描き、交流します。作品はひろしま国のホームページでも紹介します。平和記念公園(中区)で写生大会を開き、参加する多くの子どもたちに絵を寄せてもらうのもいいです。


国を越え、中高生同士で意見を深める

広島を訪れる海外の中高生と話し合いの場を設け、草の根から平和への思いを広げます。戦争の被害を受けた子どもたちを招待し、広島の復興の歴史も伝え、希望を持ってもらいます。さらに、中高生版の「平和宣言」をつくり、8月6日に発表します。